※本記事は、客観的分析のため『だ・である調』で統一しています。
【2026年度後期】東邦大東邦中(国語)大問1 古田徹也『言葉なんていらない? 私と世界のあいだ』解答解説
国語の論説文において、「言葉」や「コミュニケーション」は極めて普遍的なテーマである。今回取り上げる古田徹也の『言葉なんていらない? 私と世界のあいだ』では、古代ギリシアの哲学者プラトンが『パイドロス』の中で書き記した神話を出発点とし、「話される言葉」と「書かれる言葉」の構造的な違いが論じられている。
しかし、このような言語哲学の背景知識を知っているだけでは、入試問題で確実に正答を導くことはできない。本番の限られた時間の中で得点をもぎ取るためには、筆者の論理展開を客観的な「思考手順」へと変換し、選択肢や記述の要素を厳密に判定していく技術が不可欠である。
古田徹也『言葉なんていらない?』の要約と論理構造
この文章は、「文字の利点と弱点」を中心軸に据えながら、最終的に「書かれた言葉」と「話された言葉」の構造的な対比へと議論を展開している。
論説文全体を貫く論理の推移を整理すると、以下のようになる。
| 展開の段階 | 本文での論証ステップ | 読解の視点(客観的な構造) |
| ① 問題提起 | プラトンの神話を引き合いに出し、文字が記憶や知恵に与える影響を提示する。 | 議論の出発点となる「テーマ」の導入。 |
| ② 文字の利点 | 文字を使うことで、頭の中の情報を外部に保存し、扱うことができる(記憶の外部化)。 | 「書かれた言葉」のプラス側面の確認。 |
| ③ 話し言葉の特性 | 相手や状況に合わせてカスタマイズでき、誤解があればその場で訂正や補足ができる。 | 対比項A:「話される言葉」の利点。 |
| ④ 文字の問題点 | 書かれた言葉は状況から切り離され、想定外の人に読まれ、誤解や批判を生みやすい。 | 対比項B:「書かれた言葉」の弱点。 |
| ⑤ 対比の帰結 | 書かれた言葉は「一人歩き」し、誤解されても自分で自分を守る(反論する)ことができない。 | AとBを比較した結果生じる差異の明言。 |
「話される言葉」と「書かれる言葉」の対比構造を冷静に追跡することが、大半の設問を解く鍵となる。
【大問1】各設問の解答解説と思考手順
問1 漢字識別(同音異字)
- 手順1(設問要求): 本文中の「サンショウ」の「ショウ」と同じ漢字を使うものをすべて選ぶ。
- 手順2(根拠範囲): 傍線部の語の文脈と、各選択肢の熟語の意味。
- 手順3(論理整理): 傍線部の「それらをサンショウして」は「参照」である。照らし合わせるという意味の「照」を確定する。
- 手順4(選択肢比較): A「日照時間(ニッショウ)」、B「照明(ショウメイ)」、I「照準(ショウジュン)」がいずれも「照」を用いるため適切である。C「招待(ショウタイ)」、D「賞状(ショウジョウ)」、E「商品(ショウヒン)」、F「認証(ニンショウ)」、G「斉唱(セイショウ)」、H「称賛(ショウサン)」は、それぞれ「照」とは異なる漢字を用いる。
- 結論: A・B・I
問2 傍線(1)「タムスはこれに納得しない」
- 手順1(設問要求): タムスが文字の発明に納得しなかった理由として、もっとも適切なものを一つ選ぶ。
- 手順2(根拠範囲): 傍線部直後のタムスの反論内容(文字に頼るとどうなるか)。
- 手順3(論理整理): タムスの主張の中心は、「外部の文字に頼って多くの情報に接しても、それは『物知り』になったように見えるだけであり、自分自身の本当の知恵や知識を持つことにはならない」という点である。「多くを知っているように見えること」と「本当の知識を持つこと」のギャップを捉える。
- 手順4(選択肢比較): Eは、情報を自分の知識にできないまま物知りのように振る舞い、本当の知識や思考力を欠く人間になってしまうというタムスの批判と合致する。Aの「物事の本質を見抜く力」は本文の表現から逸脱・拡大している。Bは「正確な判断ができるようになる」と本文の逆を述べている。
- 結論: E
問3 傍線(2)「記憶を外部化する」
- 手順1(設問要求): 「記憶を外部化する」例として、もっとも適切なものを一つ選ぶ。
- 手順2(根拠範囲): 「記憶の外部化」を説明している段落の文脈。
- 手順3(論理整理): 記憶の外部化とは、「自分の頭の中(内部)」に留めておくのではなく、文字などを通して「自分の外(外部の媒体)」に記録・保存することである。
- 手順4(選択肢比較): Cは「先生が黒板に書いた言葉や説明を、自分のノートに丁寧に書き写す」行為であり、情報を外部(ノート)に記録・保存する点において合致する。A(参考書を読む)、D(内容を思い出しながら覚える)は知識を内部(頭の中)に取り込む行為であり逆方向である。
- 結論: C
問4 傍線(3)「言葉の特徴」
- 手順1(設問要求): 筆者が説明する「言葉の特徴」として、もっとも適切なものを一つ選ぶ。
- 手順2(根拠範囲): 傍線部以降の、「どんな言葉でも〜」から始まる段落。
- 手順3(論理整理): 言葉は本来「固有の状況」で発せられるが、ひとたび書きものにされると、その状況から離れて「想定されなかった多様な人々」に読まれる可能性があるという因果関係を押さえる。
- 手順4(選択肢比較): Bは「使われた場面から離れると、書いた人の意図と違う意味で読まれることがある」と、文脈からの離脱と誤読の可能性を正確に説明している。Aは「必ず同じように伝えられる」、Cは「状況が変わっても誤解されない」としており、本文の主張と正反対である。
- 結論: B
問5 空欄Ⅰ・Ⅱの接続語
- 手順1(設問要求): 空欄Ⅰ・Ⅱにあてはまる言葉としてもっとも適切なものをそれぞれ一つ選ぶ。
- 手順2(根拠範囲): 空欄Ⅰの前後(話し言葉のカスタマイズ機能についての一般論とケーキの話題)、空欄Ⅱの前後(言葉は固有の状況で発せられるという文と、その具体的な構成要素)。
- 手順3(論理整理): Ⅰは、「相手に応じて説明の仕方を変えられる」という一般論に対し、「美味しいケーキを食べたとき」の具体的な場面を引き出しているため「例示」の論理である。Ⅱは、「固有の状況」という抽象的な言葉を、「ある人物から〜あるタイミングで発せられる」と具体的に言い換えているため「換言」の論理である。
- 手順4(選択肢比較): 例示を表すのはFの「たとえば」、換言を表すのはCの「すなわち」である。
- 結論: Ⅰ=F「たとえば」 / Ⅱ=C「すなわち」
問6 「書かれる言葉よりも話される言葉のほうが優れたものでありうる」
- 手順1(設問要求): 話し言葉のほうが優れている点について、もっとも適切なものを一つ選ぶ。
- 手順2(根拠範囲): 話し言葉の特性を説明している段落(相手の応答や表情などに応じて〜)。
- 手順3(論理整理): 本文で示される話し言葉の強みは、「相手や状況が目の前にあるため、反応を見ながらその場で表現を変えたり、訂正・補足ができる」というカスタマイズ性と即応性である。
- 手順4(選択肢比較): Aは「相手や状況に合わせて発せられ、その後に続く言葉によって訂正したり補足したりすることができる」と、本文の論理を過不足なく説明している。B(余計な言葉が消える)、D(余すことなく伝える)などは本文にない情報の追加である。
- 結論: A
問7 傍線(5)の理由(抜き出し)
- 手順1(設問要求): 書かれた言葉が誤解・曲解されて利用される理由を、本文中から15字でぬき出す。
- 手順2(根拠範囲): 書かれた言葉が批判されるという記述の直後にある結論部分。
- 手順3(論理整理): 話し言葉であればその場で訂正できるが、書かれた言葉は書き手から離れてしまうため、批判されても自ら説明を加えることができない。この状態を指す決定的な一文を探す。
- 手順4(選択肢比較): 直後の文に「書かれた言葉は、自分で自分を守ることができないのである。」とある。ここの「自分で自分を守ることができない」が15字であり、意味も完全に一致する。
- 結論: 自分で自分を守ることができない
問8 傍線(6)「一人歩き」
- 手順1(設問要求): 「一人歩き」の説明としてもっとも適切なものを一つ選ぶ。
- 手順2(根拠範囲): 傍線部直前の文「どこででも読まれてしまう」から、誤解や批判につながる一連の段落。
- 手順3(論理整理): 「一人歩き」とは、単に広く流通することだけではない。「書かれた当初の状況(文脈)から離れ、書き手が想定していない人々に読まれ、意図と異なる形で理解される」という一連のプロセスを含んでいる。
- 手順4(選択肢比較): Bは、当初の状況から離れ、想定外の形(意図と異なる形)で理解・拡散するというプロセスを正確に説明している。Aは「持ち運ばれて読まれる」という物理的移動しか述べておらず、誤解や文脈からの離脱という負の側面が欠落している。
- 結論: B
問9 本文の表題(タイトル)
- 手順1(設問要求): 文章の表題としてもっとも適切なものを一つ選ぶ。
- 手順2(根拠範囲): 本文全体。
- 手順3(論理整理): プラトンの神話、記憶の外部化、カスタマイズ性、文脈の喪失、活版印刷の拡大など、すべての段落の要素を最も上位の概念で包み込めるテーマを抽出する。
- 手順4(選択肢比較): 全文を貫く中心軸は「話される言葉と書かれる言葉の構造的な違い」である。Cはこれをそのまま表現している。A(記憶の外部化)、D(印刷技術)は特定の部分・段落のテーマにすぎず、全体を覆う表題としては不適である。
- 結論: C
授業ではここまで扱う:二項対立のフレームワーク
本記事では設問に対する客観的なアプローチを提示したが、実際の当研究所の指導では、個別の問題の正解を出して終わることは決してない。本文の根底にある「二項対立(二つの対比)」を構造として抽出し、他の評論文にも適用可能な「型」として整理することを要求する。
今回の文章は、評論文の典型的なパターンである「話される言葉(音声)」と「書かれる言葉(文字)」の対比で構成されている。これを汎用的な読解の手順に当てはめると以下のようになる。
| 分析軸(論点) | 対比項A:話される言葉(音声) | 対比項B:書かれる言葉(文字) |
| 情報の対象・範囲 | 目の前にいる「特定の相手」に向ける。 | 時間・空間を超え「不特定多数」に届く。 |
| 状況の共有(文脈) | 互いの状況や身振りなどの「文脈を共有」している。 | 書かれた当時の「状況から切り離される」。 |
| 対応力(訂正・補足) | 相手の反応を見て「その場で訂正・補足」ができる。 | 批判されても「自分で自分を守れない(反論できない)」。 |
| 伝達の結果 | 柔軟なやり取りにより「誤解を避けやすい」。 | 書き手の意図と離れ「一人歩き」しやすい。 |
ただし、この対比は「話し言葉が優れ、書き言葉が劣る」という単純な優劣(善悪の二分法)ではない。書き言葉には記憶を外部化し、大量の知識を利用可能にする利点もある。
重要なのは、「文字は一人歩きする」と暗記することではない。評論文においては、このような対比構造を序盤で素早く見抜き、表の空欄を埋めるように情報を整理していくことが求められる。問4、問6、問7、問8はすべて、この「対比のフレームワーク」が頭の中で整理されていれば、判断根拠をかなり絞り込みやすくなる。状況の変化や対比の構造を捉え、別の初見問題にも転用できるように整理すること。それが当研究所の指導の核心である。
東邦大学付属東邦中学校 国語の対策と復習手順
今回の2026年度後期・大問1では、論理の展開を正確に追跡する力が要求されている。設問は本文の対比構造や因果関係に沿って緻密に作られており、「なんとなくこの選択肢が良さそう」という曖昧な読解で処理しようとすると、一部の要素だけが合っている誤答選択肢に誘導され、失点につながりやすくなる。
本文の内容を理解できたかということと、本番の緊張状態の中で正答までの手順を狂いなく再現できるかということは、全く別の技術である。
過去問を復習する際は、正解したか間違えたかに一喜一憂してはならない。本記事で提示した「設問要求の確定 → 根拠範囲の限定 → 論理関係の整理 → 選択肢の厳密な排除」という客観的な手順を、すべての問題に対して自らの言葉で明確にすることが求められる。
直感に頼らず、本文の対比構造という客観的なデータだけを冷静に抽出・処理する技術を身につけることが重要である。

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