【2025年度】芝浦工大柏(国語)大問2 額賀澪『風は山から吹いている』解説と客観的思考手順

※本記事は、客観的分析のため『だ・である調』で統一しています。

小説の読解において、自然の風景は単なる背景ではない。今回取り上げる額賀澪の『風は山から吹いている』では、主人公の岳が、登山による身体的負荷や景色の変化を経験する中で、山や自分自身の達成に対する認識を変化させていく過程が描かれている。雨上がりの悪路から始まり、視界の開けた尾根、そして頂上から見晴らす富士山へと至る景色の変化は、岳の心情の変化と密接に対応している。

しかし、このような「情景と心情の対応」という文学的なテーマを知っているだけでは、入試問題で正答を導くことはできない。本番の限られた時間の中で得点をもぎ取るためには、登場人物の感情を客観的な「思考手順」へと変換し、選択肢を一つずつ厳密に判定していく技術が不可欠である。

目次

額賀澪『風は山から吹いている』の要約と全体構造

この場面では、登山経験の浅い岳が、経験豊富な穂高とともに鍋割山へ登る過程が描かれている。

読解の中心となるのは、単なる「登山の出来事」ではない。身体的な負荷・周囲の景色・穂高とのやり取りによって、岳の気持ちがどう変化していくかを追うことが重要である。

本文全体を貫く情景と心情の推移を整理すると、以下のようになる。

場面岳を取り巻く状況・変化岳の心情・認識(結果)
登山前半雨上がりで足場が悪い。水も背負う。疲労・不安を感じながら登る。
後沢乗越付近視界が開け、景色が変化する。気分転換になり、登る意欲が戻る。
急登~馬の背水の重さ、急斜面という過酷な負荷。苦しいはずなのに前向きになり、登ること自体に高揚する。
山頂到着視界が開け、標高の数字を確認する。達成を実感し、深い感慨を覚える。
食事鍋焼きうどんを食べる。達成感とともに、全身でおいしさを感じる。
富士山出現雲が晴れて富士山が現れる。山の景色に圧倒され、穂高の言葉にも納得する。

登山の進行に伴う「身体的負荷の増大」「視界の変化」「山頂到達」「食事」「富士山の出現」と、それぞれに対応する岳の心情変化を冷静に追跡することが、多くの設問を解く鍵となる。

【大問2】各設問の解答解説と思考手順

(1)傍線A「後沢乗越まで頑張れ」

  • 手順1(設問要求): 穂高の「後沢乗越まで頑張れ」という言葉の意味として、最も適当なものを一つ選ぶ。
  • 手順2(根拠範囲): 発言の直前の状況(登山前半の悪路と疲労)と、直後の状況(視界が開け、気分転換になる)。
  • 手順3(論理整理): 穂高は単に「休憩地点まで我慢しろ」と言っているのではない。後沢乗越まで行けば、「閉じた景色 → 視界の開けた景色」という変化が起きる。そこから岳は、高く登ってきたことを実感でき、疲労から離れて山頂を目指す意欲を取り戻せるという因果関係を押さえる。
  • 手順4(選択肢比較): エは、視界が開けて高く登ってきた実感を得ることで、疲労から離れ山頂へ向かう自信や意欲を取り戻すという本文の流れに合致する。アは「一度休む場所」という部分に寄りすぎている。イは「達成感を得て満足する」と関係性のすり替えを行っている。ウは「厳しさに慣れておく」という本文にない情報を追加している。オは「つらいだけ」という限定が強すぎる。
  • 結論:

(2)傍線B「何故か口元は緩んでしまう」

  • 手順1(設問要求): 岳が「何故か口元は緩んでしまう」理由として、最も適当なものを一つ選ぶ。
  • 手順2(根拠範囲): 傍線部直前の身体的な状況と、それに対する岳の感覚。
  • 手順3(論理整理): 身体的には「登りがきつい・水を背負っている」という強い負荷がかかっている。しかし、本人の心理としては「苦しいはずなのに、体が苦痛を感じていない」「前へ前へ進んでいく」という状態にある。「身体の苦しさ < 前へ進む気持ち(高揚)」というずれが生じているため、無意識に口元が緩む。
  • 手順4(選択肢比較): ウは、負荷を認識しながらも苦痛として強く感じず、意識が前向きになっている状態を正確に表している。アは「到着が近いことへの興奮」と原因をすり替えている。イは「見栄を張った自分を滑稽に感じる」という本文にない感情を追加している。オは「自分が強くなった」と感じたことへ焦点をずらしている。
  • 結論:

(3)傍線C「着いた……!」

  • 手順1(設問要求): 岳が山頂に着いた直後の心情変化について、最も適当なものを一つ選ぶ。
  • 手順2(根拠範囲): 山頂到着直後から、標高を確認するまでの一連の描写。
  • 手順3(論理整理): 岳の心情は、「『着いた』という到達への高揚」→「自然の空気による新鮮さ」→「『1273m』という具体的な数字を確認し、自分が本当に高いところまで登ったという達成の実感」と段階的に深まっている。
  • 手順4(選択肢比較): オは、山頂到着と自然の空気に興奮し、さらに標高という具体的情報から達成を実感して感慨を深めるという流れを過不足なく捉えている。アは「気が抜ける」、イは「寂しい思い」、ウは「どっと疲弊した」と、いずれも到達後の心情として本文と矛盾する感情を追加している。
  • 結論:

(4)傍線D「うっま」

  • 手順1(設問要求): 鍋焼きうどんを食べた岳の感覚・心情として、最も適当なものを一つ選ぶ。
  • 手順2(根拠範囲): 食事場面の岳の感覚描写(「充実感に全身の細胞が天を仰いで深呼吸をしている」など)。
  • 手順3(論理整理): 単なる空腹ではなく、「自分の体を使って山頂まで登ったことで得た達成感」と、「食事のおいしさ」が結び付き、全身でそれを味わっている状態である。
  • 手順4(選択肢比較): イは、登山で得た達成感に浸りながら、体全体でおいしさを味わっているという本文の描写と一致する。アの「名残惜しい」、エの「食べるのが最大の目的」、オの「無心に食べる」などは、いずれも本文の「達成感による充実」という要素を欠落させるか、別の情報にすり替えている。
  • 結論:

(5)傍線E「綺麗でしょ?」

  • 手順1(設問要求): このときの穂高の心情についての発言のうち、本文の内容を踏まえて「適当でないもの」を一つ選ぶ。
  • 手順2(根拠範囲): ここまでの穂高の立場と、富士山が現れた時の二人のやり取り。
  • 手順3(論理整理): 穂高は「岳を登山へ誘い、鍋割山から富士山が見えることも事前に知っている」という案内役の立場である。「自分が知っている山の魅力を岳にも体験してほしい」という情報差が背景にある。
  • 手順4(選択肢比較): ア〜エは、案内役としての満足感や、岳の反応を楽しんでいる様子として解釈可能である。しかし、オの「富士山の出現が穂高にとっても新鮮な体験だった」という説明は本文根拠がなく、穂高は鍋割山から富士山が見えることを事前に知っている側であるため、人物関係とも整合しない。
  • 結論:

(6)穂高に対する岳の心情・態度

  • 手順1(設問要求): 文章中の岳の穂高に対する心情や態度として、最も適当なものを一つ選ぶ。
  • 手順2(根拠範囲): 本文全体を通した、穂高の助言に対する岳の内心の評価と、実際の態度。
  • 手順3(論理整理): 岳は穂高の経験や実力を認めている(内面)。一方で、自分の気持ちまで見透かされているようで気恥ずかしく、素直に認められない(表面的な態度)という複合的な感情を抱いている。
  • 手順4(選択肢比較): アは、穂高の力や人柄を認めつつも、内面を見抜かれているようで素直になれないという、岳の複雑な態度を客観的に説明している。イの「情けなさ」、ウの「高圧的」、エの「穂高が無関心」はいずれも本文の関係性を歪めている。
  • 結論:

(7)本文の表現上の特徴

  • 手順1(設問要求): 本文の表現についての発言のうち、最も適当なものを一つ選ぶ。
  • 手順2(根拠範囲): 本文全体の情景描写(色、光、比喩など)とその効果。
  • 手順3(論理整理): 「雨上がりの緑」「青い空」「馬の背中みたい」「白いベール」といった比喩や色彩の描写(技法)が、登山の進行とともに岳が山の美しさに引き込まれ、心情が変化していく様子(効果)を伝えている。
  • 手順4(選択肢比較): エは、色や明暗、比喩を用いた風景描写によって、岳が山の神聖な雰囲気に魅了されていく様子が伝わるという「技法と効果」の関係を正確に述べている。アの「心情が直接描かれていない」、イの「簡潔に淡々と」は事実誤認である。
  • 結論:

授業ではここまで扱う:原因から結果への心情遷移を追跡する

本記事では設問に対する客観的なアプローチを提示したが、実際の当研究所の指導では、特定の小説の「あらすじ」を理解して終わることは決してない。本文の根底にある「情景描写と心情の連動」を抽出し、他の小説読解にも適用可能な「型」として整理することを要求する。

小説において、心情は「原因 → 心情 → 結果(行動や表情)」のセットで描かれることが多い。今回の文章を、汎用的な読解の手順に当てはめると以下のようになる。

分析ステップ本文での具体例(鍋割山登山)読解の視点(客観的な手順)
1. 状況の把握(原因)急な登り、水の重さ、激しい脈拍。人物が現在どのような客観的状況(負荷や環境)に置かれているかを特定する。
2. 外的変化(きっかけ)閉じた視界から、尾根や山頂へ視界が開ける。状況に変化をもたらす外的要因(景色、他者の言葉、天候など)を抽出する。
3. 心情の発生(内面)苦痛を感じない、登ることへの高揚。原因ときっかけによって、人物の内面にどのような感情が生まれたかを言語化する。
4. 表情・行動(結果)「何故か口元は緩んでしまう」生まれた心情が、どのような外形的な行動や表情として表出されたかを結びつける。

重要なのは、「岳が山に登って感動した」という個別のエピソードを暗記することではない。環境の変化が人物の認識をどう更新していくかという構造を捉え、別の初見問題に対してもこの読解手順を転用できるように整理することだ。それが当研究所の指導の核心である。

芝浦工業大学柏高校 国語の対策と復習手順

今回の芝浦工業大学柏高校・大問2は、小説であっても感覚だけでは安定して処理できない。設問は本文の描写に沿って緻密に作られており、本文にない心情を補ってしまうと、誤答選択肢を選ぶ原因になる。

本文のストーリーを楽しむことと、本番の緊張状態の中で正答までの手順を狂いなく再現できるかということは、全く別の技術である。

過去問を復習する際は、正解したか間違えたかに一喜一憂してはならない。本記事で提示した「設問要求の確定 → 根拠範囲の限定 → 論理関係の整理 → 本文にない情報の追加やすり替えを厳密に排除」という客観的な手順を、すべての問題に対して自らの言葉で明確にすることが求められる。

共感や想像だけに頼らず、本文に示された発言・行動・情景描写を客観的な根拠として処理する技術を身につけることが重要である。

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この記事を書いた人

習志野受験研究所 所長/新・個別指導アシスト習志野校 塾長

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