【2025年度第1回】芝浦工大柏(国語)大問1 清水幾太郎『日本語の技術』解答解説:対比構造を暴く解法アナトミー

※本記事は、客観的分析のため『だ・である調』で統一しています。

国語における論説文の多くは、私たちが普段無意識に使っている「言葉」や「認識」の背後にある危うさを突きつけてくる。今回取り上げる清水幾太郎の『日本語の技術』は、まさにその典型である。

本文では、「原物」と、それを表す「文字・言葉」との距離が問題にされている。目の前の火と、「火」と書かれた文字は同じものではない。この差が、文章によって感情や事物を伝える際の「頼りなさ」を生む。

しかし、こうしたテーマを知っているだけでは、入試問題で正答を導くことはできない。本番の限られた時間の中で得点をもぎ取るためには、書き手の思想を客観的な「思考手順」へと変換し、選択肢を一つずつ厳密に判定していく技術が不可欠である。

目次

清水幾太郎『日本語の技術』の要約と論理構造

この文章を貫く中心的な主張は、冒頭に示される「強い表現を避ける」という実践的な文章作法である。筆者は、その理由を以下の論理構造で展開している。

  1. 言語の抽象性(前提): 文字や言葉は「原物」そのものではなく、それを表す抽象的な「影」にすぎない。
  2. 書き手の心理(原因): 「もっと強い言葉を使えば伝わるのではないか」と考え、強い表現で補おうとする心理が働く。
  3. 逆効果の発生(結果): しかし、どれほど強い表現を重ねても原物には近づかない。むしろ、表現が激しくなるほど現実とのずれが目立ち、読者は書き手の気持ちから遠ざかってしまう。
  4. 社会的な陳腐化(具体例): 新聞などで強い言葉が繰り返されると、読者はそれに慣れ、言葉が本来持っていた新鮮さや効果が失われる。
  5. 結論: したがって、強い表現はできるだけ避けるべきである。

この「文字が頼りない → 強い言葉で補いたくなる → しかし原物には近づかない → 現実とのずれが目立つ → 読者が離れる」という因果の連鎖を正確にトレースすることが、すべての設問を解く鍵となる。

【大問1】各設問の解答解説と思考手順

(1)漢字問題

  • 手順1(設問要求): 本文中のカタカナ部分と同じ漢字を含む熟語をそれぞれ選ぶ。
  • 手順2(根拠範囲): 本文のカタカナ語の文脈と、選択肢の熟語の意味。
  • 手順3(論理整理): 音だけで判断せず、「本文の語を漢字化する → 照合する一字を特定する → 選択肢の熟語を漢字化する」という手順を踏む。
  • 手順4(選択肢比較):
    • ①「ヒジョウ」=「非常」。照合する漢字は「常」。エの「常連(ジョウレン)」が該当。
    • ②「ギワク」=「疑惑」。照合する漢字は「疑」。ウの「懐疑的(カイギ的)」が該当。
    • ③「イゼン」=文脈から「もとのまま変わらず」という意味の「依然」。照合する漢字は「依」。エの「依願(イガン)」が該当。
    • ④「カクメイ」=「革命」。照合する漢字は「革」。オの「沿革(エンカク)」が該当。
    • ⑤「アげる」=「挙げる」。照合する漢字は「挙」。イの「一挙(イッキョ)」が該当。
  • 結論: ①エ、②ウ、③エ、④オ、⑤イ

(2)「強い表現」とは何か

  • 手順1(設問要求): 筆者が考える「強い表現」の説明として適当なものを二つ選ぶ。
  • 手順2(根拠範囲): 本文冒頭の段落2および、後半の段落6・7の具体例。
  • 手順3(論理整理): 本文で挙げられている具体例を抽出・抽象化する。「ふまえて」「かかわりあい」などの感覚的・情緒的な和語と、「死」「殺」「壊滅」などの強烈・過激な印象を与える漢語の二種類が「強い表現」として提示されている。
  • 手順4(選択肢比較): イは「情緒的な意味合いや漠然とした雰囲気のある和語」として前半の例を、オは「深刻な意味合いや過激な印象のある漢字(漢語)」として後半の例を正確に説明している。アは難解さに焦点を当てている点で不適、ウは「簡単な和語やひらがなのままの和語」を主眼としている点で不適、エは画数とひらがなの視覚的な混在を説明している点で本文と合致しない。
  • 結論: イ・オ

(3)空欄B・Eに入る接続語

  • 手順1(設問要求): 空欄に入る接続語の組み合わせとして最も適当なものを選ぶ。
  • 手順2(根拠範囲): 空欄Bの前後(段落2)、空欄Eの前後(段落10)。
  • 手順3(論理整理):
    • Bの前は「見ても本物とは違う」、後は「触れても本物とは違う」。同方向の情報を追加しているため、添加を示す「また」が入る。
    • Eの前は「現在=使い古されている」、後は「当初=新鮮だった」。前後差から逆接の論理関係が生じているため「しかし」が入る。
  • 手順4(選択肢比較): Bに「また」、Eに「しかし」を配置しているのはオのみである。前後の論理関係を先に確定することで、明確に一つに絞れる。
  • 結論:

(4)傍線C「文字の頼りなさを少しでも補おうという心理」

  • 手順1(設問要求): 先生の説明を踏まえ、筆者の考え方に沿っている意見を二つ選ぶ。
  • 手順2(根拠範囲): 段落2「火」の具体例と、段落3「感情」の説明。
  • 手順3(論理整理): 「実際の火=原物」と「火(fire)=原物を指す文字・記号」は別物であり、文字には形も熱さもないという事実。さらに感情の場合には、火のような「皆で確認できる原物」すらないため、言葉に頼るしかないという事実を整理する。
  • 手順4(選択肢比較): イは「火」という原物と文字の違いを正確に説明している。カは、感情そのものが形を持たず、それを表す言葉しか存在しないという厄介さを正確に捉えている。他の選択肢は、文字そのものを原物と混同したり、文字の見た目の問題にすり替えたりしているため不適。
  • 結論: イ・カ

(5)段落4~7の関係

  • 手順1(設問要求): 段落4~7までの相互の関係として最も適当なものを選ぶ。
  • 手順2(根拠範囲): 段落4から段落7までの各段落の役割。
  • 手順3(論理整理):
    • 段落4:心理・原因(なぜ強い表現を使いたくなるのか)。
    • 段落5:問題点・批判(しかし原物には近づかず、読者から離れる)。
    • 段落6・7:具体例(スポーツ新聞などの例)。
  • 手順4(選択肢比較): 段落4での考えに、段落5で批判を加え、段落6・7の具体例によって説明・裏付けを行っている。この文章構成の役割を正確になぞっているのはエである。
  • 結論:

(6)傍線D「文章を読んでくれる人間の気持ちから却って遠く離れてしまう」

  • 手順1(設問要求): 傍線部が意味する内容として最も適当なものを選ぶ。
  • 手順2(根拠範囲): 傍線部直後の段落6・7(スポーツ新聞等の例)。
  • 手順3(論理整理): 書き手は「強い表現で伝えたい」と考えるが、読者は「実際には誰も死なない」と知っている。表現を強くしすぎると現実とのギャップが目立ち、読者はそれを真剣に受け取らなくなる。
  • 手順4(選択肢比較): アは「強い表現が現実に大きく異なっていることに気付いているため(中略)大きく気持ちを動かされたりすることがない」と、ギャップによる効果の喪失を正確に指摘している。他の選択肢は、読者が脅威を感じて忌み嫌うなど、本文にない情報の追加や関係性のすり替えを行っている。
  • 結論:

(7)傍線F「新聞などの真似はしない方がよい」

  • 手順1(設問要求): 筆者の考えと同じ立場の意見を選ぶ。
  • 手順2(根拠範囲): 傍線部直前の段落10(強い表現の陳腐化のプロセス)。
  • 手順3(論理整理): 「強い表現を避ける」理由は、「刺激に疲れる」こと自体よりも、最初は新鮮だった強い表現が、多用され一般化することで新鮮さを失い、実情とのずれにも慣れられてもともとの強さを失うという時間変化である。
  • 手順4(選択肢比較): エは、反復によって表現が陳腐化するという論理を踏まえており、「言葉と実情の違いにうんざりする」「定着して繰り返し使われると目新しさが消え」という記述が筆者の論理と合致する。ア(単なる模倣批判)、ウ(未熟さがバレるから)などは因果関係の追加であり不適である。
  • 結論:

(8)本文全体の論旨

  • 手順1(設問要求): 本文全体の論旨として最も適当なものを選ぶ。
  • 手順2(根拠範囲): 文章全体。
  • 手順3(論理整理): 「文字が抽象的で頼りない → だから強い表現で補おうとする → しかし原物には近づかず、現実との差が広がって読者が離れる → 繰り返し使われればさらに効果を失う → だから強い表現は避けるべきだ」という因果関係を統合する。
  • 手順4(選択肢比較): オは、文字の抽象性から始まり、意図に反して効果が薄く印象も悪くなるため避けるべきだという、全文の構造を過不足なく回収している。ア(誤解が生じることだけを中心に据える)、イ(読者の読み取り能力への要求に変える)は論点をずらしている。
  • 結論:

授業ではここまで扱う:対比構造の可視化と抽象化

本記事では設問に対する客観的なアプローチを提示したが、実際の当研究所の指導では、特定の文章の「あらすじ」を理解して終わることは決してない。本文の根底にある「対比構造」を抽出し、他の論説文にも適用可能な「型」として整理することを要求する。

今回の清水幾太郎の文章を、汎用的な対比のフレームワークに当てはめると以下のようになる。

分析軸対比項A対比項B
存在の位相原物(実際の火、生の感情)文字・言葉(抽象的な記号、影)
情報の伝達書き手の意図(強い言葉で伝えたい)読者の受け取り(現実とのずれに白ける)
時間的推移当初の新鮮な言葉(強烈な効果を持つ)反復され陳腐化した言葉(効果を失う)

論説文で筆者が何かを批判している場合、「理想と現実」「意図と結果」「期待と実態」などのずれが論理の軸になっていることが多い。重要なのは、「火と文字の違い」という個別の事象を固定して覚えることではない。状況の変化や前後関係の差を構造として捉え、別の初見問題に対してもこの読解手順を転用できるように整理することだ。

芝浦工業大学柏高校 論背う分の対策と復習手順

芝浦工業大学柏高校の国語は、感覚的な読解を許さない。設問は本文の論理構造に沿って緻密に作られており、「なんとなく合っていそう」という曖昧な選択は即座に失点パターンに直結する。

本文の内容を理解することと、初見の設問で正答までの手順を再現することは別である。過去問を復習する際は、正解したか間違えたかに一喜一憂してはならない。本記事で提示した「設問要求の確定 → 根拠範囲の限定 → 論理関係の整理 → 選択肢の厳密な排除」という客観的な手順を、別の問題でも反復し、自らの言葉で明確にすることが求められる。

抽象的な言葉に惑わされず、本文を支える論理の骨格を冷静に抽出する技術を身につけることが重要である。

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この記事を書いた人

習志野受験研究所 所長/新・個別指導アシスト習志野校 塾長

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