※本記事は、客観的分析のため『だ・である調』で統一しています。
【2025年度千葉日大一高】国語大問1解法分析|「役立つ」の二つの次元と複数資料の統合
難関校の国語では、しばしば「実学(理系)偏重」や「人文学(文系)の軽視」といった現代社会の風潮に対し、根源的な問いを投げかける評論文が出題される。本問(吉見俊哉『「文系学部廃止」の衝撃』)は、学問が「役に立つ」という言葉の定義そのものを解体し、目的遂行と価値創造という二つの次元から知のあり方を再定義した非常に優れた文章である。
本文では、すべての学問が明確に二分されるわけではないと留保しつつ、概して理系の知を「目的遂行型」、文系の知を「価値創造型」として対比している。この知的な枠組みをインプットしておくことは、文章の現在地を把握する上で有効な読解の手がかりとなる。しかし、テーマや背景知識を知っているだけでは、入試本番で合格点は取れない。巧妙に加工された選択肢の罠を見抜き、複数テキスト(資料)との統合問題を処理するには、本文の論理構造を客観的に辿る「思考手順」の言語化が不可欠である。
吉見俊哉『「文系学部廃止」の衝撃』の要約と論理構造
評論文の分析において重要なのは、段落ごとに場当たり的な読解をするのではなく、筆者が設定した「対比構造」をマクロな視点で整理することである。本問では、短期的な経済効果という単一の尺度に対する批判から始まり、知の役割がどのように再定義されるかという論理のベクトルが読解の前提となる。
| 段階 | 本文における論理展開 | 具体例とキーワードの推移 |
| 第1段階 | 短期的尺度の偏重と批判 | 「文系学部廃止」論の背景にある、知の価値を短期的な「経済効果」だけで測る風潮への疑問。 |
| 第2段階 | 目的遂行型としての理系の知 | 目的は所与(すでに与えられている)。最も効率的な手段を開発するが、目的そのものの価値は問わない。 |
| 第3段階 | 価値創造型としての文系の知 | 目的や価値の軸を多元的に捉え、既存の価値を批判し、社会に新たな価値や目的を創造する。 |
| 第4段階 | 「二刀流」の有効性 | 価値の尺度が劇的に変化する現代において、実学的な知と哲学的・思想的な知を組み合わせることの有効性が示される。 |
この「既存の尺度への批判 → 二つの知の対比と定義 → 現代社会における統合の有効性」という構造をあらかじめ視覚化しておくことで、各設問における選択肢のすり替えや、別資料との接続を客観的に見抜くことが可能になる。
【大問1】代表設問の解答解説と思考プロセス
各設問は、単なる「結果(正答)の理由」として捉えるのではなく、本番で受験生が自力で再現できる客観的な「思考手順」として処理する必要がある。合否を分ける代表的な3問を解剖する。
【内容説明】因果関係の欠落を排除する型(問四)
傍線部C「そのシステムを内側から変えていくことができません」の説明として最も適当なものを選ぶ。
- 手順1(設問要求):目的遂行型システムが「内側から変われない」理由と、その結果引き起こされる状態を特定する。
- 手順2(根拠範囲):傍線部を含む段落および、ウェーバーの資本主義分析を用いて目的遂行型の限界を説明する段落を確認する。
- 手順3(論理整理):目的遂行型の知は「目的が与えられている」ため、目的自体の価値が失われても、自ら新しい目的(価値)を創り出すことができず、意味を失ったまま古い行動を反復してしまうという因果関係を整理する。
- 手順4(選択肢比較):
- アは、価値創造型のシステムが価値と合理的手段を統合するため、内部構造を変更できないとしている。しかし、傍線部で問題となっているのは目的遂行型の限界であり、主語が異なる。
- イは、価値創造型のシステムが、価値がどこにあるかを確認することしかできず、時代や人々の考え方に依存するとしている。しかし本文では、価値創造型は既存の価値を問い直し、新しい価値を作り出すものとされている。
- ウは、目的遂行型は達成手段を最適化するため、システムに改良を加える必要がないとしている。しかし、目的遂行型は手段の改良を得意としている。問題は手段ではなく、目的や価値の軸を自ら変更できないことである。
- エは、目的遂行型が、目的の裏付けとなる価値そのものを改善しようとするため、システムを変更しにくいとしている。しかし、目的遂行型は価値そのものを改善する知ではない。本文の説明と反対である。
- 【決定ルール】 オは、目的が持つ価値が失われても、新しい価値を自ら創造できず、それまでのシステムを続けるほかないとしている。本文の因果関係と一致する。
- 結論:正答は「オ」。
【否定極性・複数選択】極端な主張を照合する型(問七)
本文の内容および筆者の考えとして「誤っているもの」を「二つ」選ぶ。
- 手順1(設問要求):本文の主張と合致しない(誤っている)選択肢を「二つ」特定する。設問の極性(否定)と解答数(複数)の認識エラーは失点パターンとなるため、最初にマークする。
- 手順2(根拠範囲):本文全体の主旨(文系と理系の役割の違いと共存)。
- 手順3(論理整理):筆者は文系と理系の優劣を決めているわけではなく、異なる「役立ち方」を提示している。また、文系を「役に立たないが擁護すべきもの」としているわけではなく、「長期的に社会に役立つもの」と再定義している。
- 手順4(選択肢比較):
- ア・ウ・エ・カは本文の主張に合致するため、正答から外す。カは、価値の尺度が大きく変化する現代では、価値そのものを問い直す文系の知が役立つ場面が増えるという本文の結論に対応している。
- 【決定ルール1】 イの「大学の学問は社会的有用性から離れていてよい」は、筆者が文系の「社会的有用性(長期的・本質的な価値)」を明確に認めているため誤り。
- 【決定ルール2】 オの「理系の知の方が文系の知より優れている」は、筆者が両者に優劣をつけていない(役割の違いを述べているに過ぎない)ため誤り。
- 結論:誤っているものは「イ」と「オ」。
【複数資料の統合】構造の共通項を抽出する型(問九-ii)
本文の文系・理系についての考え方と、資料のAI・芸術についての考え方を結び付けた説明として最も適当なものを選ぶ。
- 手順1(設問要求):本文(理系・文系)の定義と、資料(AI・芸術)の定義の共通構造を抽出し、論理的に対応させたものを選ぶ。
- 手順2(根拠範囲):本文の「目的遂行型/価値創造型」の定義箇所と、資料の「AI/芸術」の差異を論じた箇所。
- 手順3(論理整理):
- 【本文】既存の目的に従う=理系。既存の価値を超えて新たな価値を生む=文系。
- 【資料】既存の評価軸(過去データ)に従う=AI。既存の価値を超えて絶対的・新規な価値を追求する=芸術。
- 【統合】本文と資料の対応関係では、AIは目的遂行型の理系の知に近く、芸術は価値創造型の文系の知に対応する。
- 手順4(選択肢比較):
- イ(両方理系)、ウ(両方文系)は対比構造を無視しているため排除。
- エ(芸術を理系とする)は構造が逆転しているため排除。
- 【決定ルール】 アの「AIは既存の価値基準に基づいて目的を達成しようとするため理系の知に近く、芸術は既存の評価軸にとらわれず、新しい価値を生み出すため文系の知に属する」は、統合された構造と完全に合致する。
- 結論:正答は「ア」。
授業ではここまで扱う:対比構造の抽出と複数資料の統合モデル
本記事では各設問を処理するための手順を提示したが、実際の授業において「AIは理系、芸術は文系だ」と個別の知識として暗記させることには意味がない。上位校の国語で求められるのは、表面上の言葉が異なる複数のテキストから、共通する「論理の型(構造)」を抽出し、未知の問題へと統合する力である。
実際の授業では、複数資料を統合する問題を読み解く際、以下の3段階に分けて抽象化の推移を追跡する訓練を行っている。
| 読解プロセス | 思考のステップ | 本文・資料での適用例(問九) |
| 1. 既存概念の属性抽出 | 本文内で対比されている2つの概念の「機能・役割」を言語化する。 | 理系=既存目的の効率的遂行 文系=既存価値の批判と新価値創造 |
| 2. 新規概念の属性抽出 | 外部資料で提示された新たな2つの概念の「機能・役割」を言語化する。 | AI=過去データと既存評価の再構成 芸術=絶対的・新規な価値の追求 |
| 3. 構造の抽象化とマッピング | 両者の属性を抽象化し、合致するペアを論理的にマッピングする。 | 「既存枠組みへの依存(理系・AI)」と「新規価値の創出(文系・芸術)」として統合。 |
この「属性抽出 → 抽象化 → マッピング」というプロセスは、他の複数資料問題にも応用しやすい整理手順である。重要なのは、特定のテーマを知識として固定して覚えることではない。テキスト間の状況の変化を捉え、別の問題にも転用できる読解手順として整理することである。
千葉日本大学第一高等学校・国語の対策と復習手順
難関校の国語において、「本文の内容が面白かった」「なんとなく理解できた」という読後感だけで終わらせてしまう受験生は少なくない。しかし、本文の内容を理解することと、初見の設問で正答までの手順を制限時間内に再現することは別である。合否を分けるのは、抽象的な概念を客観的に処理し、選択肢の巧妙な罠を本文・資料の根拠に基づいて排除する「正しい型(手順)」の徹底である。
今日から過去問演習に取り組む際は、以下の手順を必ず反復すること。
- 設問の極性と解答数の徹底確認 問七のような問題で、「誤っているもの」を選ぶのか、「二つ」選ぶのかを視覚的にマークし、処理モードを意図的に設定する。
- 筆者独自の対比構造の言語化 「文系/理系」といった一般用語が出現した際、世間一般のイメージに引きずられず、本文中の文脈から「筆者がどう定義しているか」を自分の言葉で抽出する。
- 誤答選択肢の「排除理由」の言語化 正解の選択肢に納得して終わるのではなく、「誤答選択肢は、何を加え、何を欠落させ、どこを逆転させているのか」を必ず本文と照合し、自分の言葉で明確にする。
自己流の学習(用語の丸暗記や、答え合わせをして解説を読むだけの漫然とした過去問演習)だけでは、自身に不足している処理手順へは気づきにくい。客観的な判断手順を反復することが、本番での得点の安定につながるのである。

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