2025年度 成田高校 国語 大問1 榎本博明『自己肯定感という呪縛』解説:抽象概念を対比と因果で読む

※本記事は、客観的分析のため『だ・である調』で統一しています。

今回の文章では、「幻想的万能感」「可能自己」「理想自己」「予想自己」「負の理想自己」など、似た領域の抽象語が次々に登場する。こうした文章では、用語を一つずつ覚えようとするのではなく、それぞれの定義、対比関係、何が原因で何が変化するのかを整理することで、文章全体の構造が見えやすくなる。

しかし、テーマ(知識)を知っているだけでは解けない。本番で正答を安定して導くには、本文の論理をたどる「思考手順」を言語化しておくことが有効である。

目次

榎本博明『自己肯定感という呪縛』の要約と論理構造

本論考は、人間の成長を「自分について思い描く未来像(可能自己)」と「現実の自分」との関係から説明した文章である。

幼い子どもは現実の制約を知らないため、「幻想的万能感」を抱き、様々な未来を思い描く。しかし、成長して経験を重ねるにつれ、自分の能力や限界を知り、実現可能性の低い未来像を排除していく。筆者はこの過程を可能自己の「修正」として説明し、幻想的万能感から脱して現実の自分を知ることを、健全な自己肯定感の形成と関連づけている。逆に、この修正が十分に起きない極端な例として、自己愛性人格障害が挙げられている。

読解の前提として、全体を貫くマクロな対比と因果関係を整理することが重要である

比較の軸幼少期成長に伴う変化修正が十分に進まない場合
自己認識実力や限界を十分に知らない。経験から能力・不足・現実を知る。現実の自己を十分に捉えにくい。
可能自己多様な未来を可能だと思う。実現可能性に応じて修正される。非現実的な自己像が残ることがある。
本文で関連する概念幻想的万能感幻想的万能感からの脱却・健全な自己肯定感極端な例として自己愛性人格障害

【大問1】各設問の解答解説と客観的プロセス

問一(a〜e)

  • 手順1(設問要求):傍線部a〜eのカタカナ語と、同じ漢字を含む語を選択する。
  • 手順2(根拠範囲):各傍線部の前後文脈。
  • 手順3(論理整理):音だけで判断せず、文脈から正しい漢字を特定する。a「コドク(孤独)」、b「モサク(模索)」、c「ボウエイ(防衛)」、d「チョウコウ(徴候)」、e「ケツジョ(欠如)」。
  • 手順4(選択肢比較):各選択肢の漢字を書き出し、共通する文字を持つものを特定する。aは③孤高、bは②索引、cは④人工衛星、dは①候補者、eは④突如がそれぞれ該当し、同音異義語を用いた誤答を客観的に排除する。
  • 結論:a③、b②、c④、d①、e④

問二

  • 手順1(設問要求):空欄ア・イに入る語句の組み合わせとして、最も適切なものを選択する。
  • 手順2(根拠範囲):空欄の直前にある、二種類の自己像の対比箇所。
  • 手順3(論理整理):前者は「こうなりたい」という理想を基準にした自己像であり、後者は「実際には平凡な生活をしているだろう」という現在の自分を踏まえた予想である。
  • 手順4(選択肢比較):「理想水準」と「現実水準」の対比が最も適切である。年齢区分(幼少期/青年期)や、楽観/悲観の区別など、本文の分類基準と異なる要素を持ち込んだ選択肢は誤答として排除する。
  • 結論:②

問三(1)

  • 手順1(設問要求):傍線部A「可能自己が修正されていきます」について、なぜ修正されるのかを説明したものを選択する。
  • 手順2(根拠範囲):傍線部の直前にある「幻想的万能感」から脱していく過程の記述。
  • 手順3(論理整理):さまざまな経験を通して自分の実力や限界(現実)を知ること(原因)で、万能感から脱し、思い描く可能性が修正される(結果)という因果関係を整理する。
  • 手順4(選択肢比較):選択肢④は、失敗を「見聞きする」ことに原因を寄せ、結論も「謙虚に考えることができる」としている。本文では、さまざまな経験を通して現実や自分の能力・性格を知り、自分にはできないことがあると理解することで可能自己が修正されると説明されているため、④は本文の因果関係を限定・変形している。
  • 結論:③

問三(2)

  • 手順1(設問要求):「可能自己」が「修正」されるとは、どのような変化なのかを説明したものを選択する。
  • 手順2(根拠範囲):幼い頃の万能感から、現実を知ることによって可能自己が変わっていく過程の記述。
  • 手順3(論理整理):「修正」とは、可能性が完全にゼロになることではなく、自分について思い描いていた未来のうち、実現可能性の低いものが排除され絞られていくことである。
  • 手順4(選択肢比較):成功観そのものが変わる(①)、あるいは「平凡な人間だ」と過度に自己評価を下げる(②)など、本文の「修正」の定義から拡大・逆転した選択肢を排除する。
  • 結論:④

問四

  • 手順1(設問要求):傍線部B「負の理想自己」とはどのようなものか、その説明として最も適切なものを選択する。
  • 手順2(根拠範囲):本文における「負の理想自己」の定義と、その直後に続く漫画家の具体例。
  • 手順3(論理整理):そうなりたくない未来を思い描き(原因)、その回避のために現在の選択や将来像をより現実的なものへ修正する(結果)という論理構造である。
  • 手順4(選択肢比較):「理想の欠点に気づく」としたり、「収入だけを重視する」としたりするなど、本文の「回避したい未来を考えることで修正を促す」という機能から外れた選択肢を排除する。
  • 結論:②

問五

  • 手順1(設問要求):傍線部C「自分が大好きな」傾向が強すぎることで生じる問題を説明したものを選択する。
  • 手順2(根拠範囲):傍線部直後の自己愛性人格障害に関する記述(誇大性、称賛されたい欲求、共感性の欠如)。
  • 手順3(論理整理):自分を特別だと過大評価する一方で、他者の気持ちには鈍感になる(共感性の欠如)という二つの要素の結合を確認する。
  • 手順4(選択肢比較):「他人を見下すことによる社会適応の失敗」や「評価への不満」など、本文の中心的な指摘である「共感性の欠如」を正確に捉えていない選択肢を排除する。
  • 結論:①

問六

  • 手順1(設問要求):文章全体の内容と一致するものを選択する。
  • 手順2(根拠範囲):前半の「可能自己の修正」に関する展開と、末尾の「健全な自己肯定感」に関する結論部分。
  • 手順3(論理整理):自分の限界を知り非現実的な自己像を修正することと、健全な自己肯定感を育てることの「両方」が人間の発達には必要であるという筆者の主張を整理する。
  • 手順4(選択肢比較):自己肯定感を不要とするものや、理想を重視すべきではないとするなど、本文の主張を逆転・極端化した選択肢を排除する。
  • 結論:④

問七

  • 手順1(設問要求):本文全体の展開の仕方を説明したものを選択する。
  • 手順2(根拠範囲):前半(幼少期からの可能自己の修正過程)と後半(幻想的万能感から脱却できない場合の指摘)の構造。
  • 手順3(論理整理):成長の中で可能自己が修正されていく場合を具体例とともに説明し、その後で修正が十分に起きない場合の問題点を述べるという構成である。
  • 手順4(選択肢比較):後半を「社会に適応するための条件」や「理論への発展」とするなど、実際の本文の構成(幻想的万能感から脱却できない場合の指摘)と一致しないものを排除する。
  • 結論:③

問八(I・II)

  • 手順1(設問要求):生徒がまとめた図の空欄I(人間の成長によくないこと)、II(心がけるべきこと)に入るものを選択する。
  • 手順2(根拠範囲):本文後半の「非現実的な称賛を受け続ける弊害」と、本文全体の主張である「現実を知る必要性」。
  • 手順3(論理整理):実力と合わない過剰な評価が現実を知る機会を奪うこと(I)が問題であり、理想だけでなく現実にも目を向けること(II)が重要であるという論理関係。
  • 手順4(選択肢比較):「理想を掲げること自体」を否定するものや、「他者を意識する」といった本文に記述のない要素を追加している選択肢を排除する。
  • 結論:I①、II④

授業ではここまで扱う:抽象概念の対比と構造化

本記事で示した解説だけでも、設問の正答を論理的に導き出すことは十分可能である。しかし、当研究所の実際の授業では、単に「この問題が解ける」状態に留まらず、初見の抽象的な論説文に転用できる「読解の型」の習得まで踏み込む。

今回の文章のように、「可能自己」「予想自己」「負の理想自己」「幻想的万能感」といった抽象語が多数登場する場合、用語を一つずつ暗記しようとすると混乱を招く。授業では、以下の段階に分けて「概念同士の関係性」を整理する手順を身につけさせる。

段階思考手順本文(榎本博明の文章)での適用例
第1段階抽象概念の抽出と定義「可能自己」=将来そうなる可能性のある自己像。
第2段階対比グループの形成「理想自己(こうなりたい)」 対 「予想自己(現実的にはこうだろう)」 対 「負の理想自己(こうはなりたくない)」
第3段階因果関係(変化)の追跡現実の壁にぶつかる(原因) → 実現可能性の低い自己像が除外される(変化/修正)。
第4段階筆者の価値判断の適用現実を知り、可能自己を修正しながら幻想的万能感から脱していく方向を肯定的に扱う。一方、その脱却ができない極端な場合の例として自己愛性人格障害を挙げる。

重要なのは、これらの心理学用語の知識を固定して覚えることではない。未知の抽象語が登場した際にも、どの言葉とどの言葉が対比されており、何が原因で状態が変化するのかという論理構造を客観的に整理し、別の問題にも転用できる読解手順として活用することだ

この大問から確認する論説文の復習手順

今回の大問1では、本文中で定義された抽象概念と、その対比・因果関係を正確に整理できるかどうかが、読解問題を処理する鍵になっている。

「本文の内容を理解すること」と、「初見の設問で正答までの手順を客観的に再現すること」は全く別の作業である。復習では、正誤だけを確認するのではなく、設問要求の確定、対比構造の整理、本文の論理を限定・変形した選択肢の排除という手順を自分で再現できたかを確認したい。解答根拠を自分の言葉で論理的に説明できる状態まで戻すことで、初見問題でも同じ処理を使いやすくなり、失点を減らすことにつながる。

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この記事を書いた人

習志野受験研究所 所長/新・個別指導アシスト習志野校 塾長

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