※本記事は、客観的分析のため『だ・である調』で統一しています。
【2025専修大松戸高】国語大問1 河野哲也『人は語り続けるとき、考えていない』解答解説|知の分断と統合を読み解く
環境問題、人工知能の発達、社会の分断。現代社会が直面するこれらの危機は、一見するとそれぞれ独立した問題のように思える。しかし本文章では、これらのより根本的な原因として、「近代以降の知のあり方」、すなわち科学による分野化・専門化に目を向けている。今回のように、環境・AI・格差など複数のテーマが展開する長文論説文では、表面的な話題の変化に惑わされず、背後にある構造的な因果関係を正確に捉えることが求められている。
こうした社会科学や哲学の知的枠組みは、文章を深く理解する背景として有効である。しかし、テーマや知識を知っているだけでは、入試本番で正答を導き出すことはできない。正答へ近づくために重要なのは、本文に示された現象と、そこから生じる帰結との関係を、因果に沿って客観的に整理する「思考手順」の言語化である。
河野哲也『人は語り続けるとき、考えていない』の要約と論理構造
本文全体を貫く構造的な特徴は、「現代社会の危機の提示」から始まり、「より根本的な原因の探索」、そして「対応の方向性としての全体性の回復」へと至る論理の推移である。筆者はまず、現代社会を脅かす三つの危機(環境・AI・分断)を提示する。その後、それらを生み出したより根本的な原因が、近代科学特有の「知の専門化・細分化(全体性の喪失)」にあるのではないかと探索する。そして最後に、分断された知を結び直し、全体性を回復するための道筋として「哲学的な対話」の可能性を提示している。
文章を読み進める際は、単なるトピックの羅列として捉えるのではなく、筆者が「どのような現象に危機感を抱き、何がその原因だと探索し、どのような対応の方向性を導いているか」という因果のネットワークを正確に追跡することが、読解の前提となるマクロな視点である。
| 分析ステップ | 対象箇所・テーマの論理構造 | 抽出される中心的な論点 |
| 1. 現象・危機の提示 | 環境問題、AIによる社会変化、他者排除による社会の分断。 | 現代社会が直面している三つの複合的な危機。 |
| 2. より根本的な原因の提示 | 近代科学による知の専門化・細分化。 | 部分に詳しくなる一方で、複雑な全体像(生態系や社会)を見失ったこと。 |
| 3. 影響と帰結 | 自然の破壊、高度化したテクノロジーを一般の人々が根本部分で選択しにくい状況、教育や知識の格差による分断。 | 全体性の喪失が、現実社会のあらゆる層に負の影響を与えている状態。 |
| 4. 対応の方向性 | 哲学における「対話」の機能の再評価。 | 異なる知や人々を結び直し、失われた「全体性」を回復させること。 |
【大問1】各設問の解答解説と思考手順
問一 二重傍線部a~cと同じ漢字を用いるもの
・手順1(設問要求):傍線部a~cのカタカナ部分を漢字に直し、同じ漢字を使う選択肢を特定する。
・手順2(根拠範囲):a「果敢」、b「直面(臨む)」、c「普遍的」の各文脈。
・手順3(論理整理):前後の文脈から、aは「敢」、bは「臨」、cは「遍」であると意味を確定させる。
・手順4(要素検証):同音異義語を排除する。a=3「勇敢(敢)」、b=2「君臨(臨)」。cは、1「普遍(普)」、2「辺境(辺)」、3「編集(編)」を排除し、4「遍歴(遍)」に絞り込む。
・結論:a=3、b=2、c=4
問二 空欄ア~ウに入る接続語
・手順1(設問要求):前後の文の論理関係を確認し、最も適切な接続語を選択する。
・手順2(根拠範囲):空欄ア・イ・ウのそれぞれの一文前と一文後。
・手順3(論理整理):
ア:直前では、環境問題が深刻な状況に達していることが述べられている。しかし空欄アの直後では、「人間の自覚はまだ鈍く、国際的な連帯も不十分である」と、事態の深刻さに反して対応が遅れていることが指摘されている。深刻な状況から期待される反応とは逆の事態が続いているため、逆接となる。
イ:「欲求も感情もない」という理由から、「自発的・自律的に生きる存在ではない」という帰結を導く順接関係。
ウ:筆者の判断の直後に、その理由(「~できるからである」)が続く因果の逆転(理由説明)関係。
・手順4(要素検証):アは順接や例示(だから・たとえば)を排除。イは逆接(けれども)を排除。ウは言い換え(つまり)を排除する。
・結論:ア=1(しかし)、イ=3(したがって)、ウ=3(なぜなら)
問三 脱落文(状況を見れば、悲観的になる方が容易である)を入れる位置
・手順1(設問要求):脱落文をA~Dのどこに入れると論理展開が最も自然になるかを判断する。
・手順2(根拠範囲):A~Dの各段落の接続部分。特に「三つの危機の提示」と「より根本的な原因の探索」の境目。
・手順3(論理整理):Aの直前までに環境・AI・分断の三つの危機が出揃う。挿入文は「これらの状況を見れば悲観的になる」と全体を総括する内容であり、その直後に「では、根本原因は何なのか」という次の展開へ接続するのが自然である。
・手順4(要素検証):B~Dはすでに「科学の専門化」という根本原因の分析へ議論が進行している。ここで「悲観的になる方が容易だ」と現状評価に戻すのは論理の逆行となるため厳密に排除する。
・結論:1(A)
問四 「環境問題の深刻さ」の具体例として不適当なもの
・手順1(設問要求):環境問題の具体例として、本文の論理と合致しないもの(不適当なもの)を1つ選ぶ。極性に注意する。
・手順2(根拠範囲):第一の危機である「環境問題」について説明されている段落。
・手順3(論理整理):本文における環境危機とは、人間が環境の回復力(レジリエンス)を超える大きな負荷をかけ、生物多様性の減少など地球上の生命に深刻な影響を与えている状態である。
・手順4(要素検証):1・2・3は本文の危機認識(生物多様性の喪失、異常気象、資源収奪)と一致する。4は「地球環境を人間の意のままに管理している」とする点が本文の危機認識と逆であるため排除(特定)する。
・結論:4
問五 「人間は、地球にとって寄生物になってしまった」の説明
・手順1(設問要求):「寄生物」という比喩によって、筆者が人間と地球の関係をどのように捉えているかを選択する。
・手順2(根拠範囲):環境問題の段落における「寄生物」の記述と、その直後の「宿主を破壊すれば自分も滅びる」という文脈。
・手順3(論理整理):寄生物の比喩の本質は、宿主に依存しながら宿主を害し、結果として自らの生存基盤まで損なう構造にある。
・手順4(要素検証):1の「永続的に生息できる」、3の「有害な生物種のみを選択的に絶滅」、4の「新たな技術で発展」はいずれも、この構造の核心から外れているため排除する。
・結論:2
問六 「なく」と同じ品詞のもの
・手順1(設問要求):傍線部3「欲求も感情もなく」の「なく」と同じ品詞を選ぶ。
・手順2(根拠範囲):傍線部3の文法的構造、および選択肢1~4の文法的構造。
・手順3(論理整理):本文の「なく」は、存在しないことを意味する自立語の形容詞「ない」の連用形である。これと文法的に一致するものを探す。
・手順4(要素検証):1「生徒が校庭からいなくなった」の「なく」は、動詞「いる」の未然形に接続する打消の助動詞「ない」の連用形であるため、形容詞の「ない」とは異なる。2は動詞「鳴く」、3は動詞「なくす」の一部である。4「説明書がなくても」は存在しないという意味の形容詞「ない」の連用形であり、本文と一致する。
・結論:4
問七 「人工知能そのものではない」と考える理由
・手順1(設問要求):筆者がAIそのものよりも、AIによって引き起こされる社会の変化を問題視している理由を選ぶ。
・手順2(根拠範囲):第二の危機「人工知能の発達」について論じている段落。
・手順3(論理整理):筆者はAIが自律的に人間を支配することを危惧しているのではない。AIの普及により「人間に求められる能力(仕事)」が変化し、それに適応できない人々が雇用不安に陥るという「社会構造の変化」を問題視している。
・手順4(要素検証):1は「AIが人間を支配する」という本文が否定した論理。2は「創造性が求められなくなる」という本文と逆の論理。4は「自尊心を奪われる」という直接的な因果関係が本文にないため排除する。
・結論:3
問八 文節の数
・手順1(設問要求):傍線部5「人間が担当する仕事はこれらに限定されているというのは」を文節に分ける。
・手順2(根拠範囲):傍線部5の文字列。
・手順3(論理整理):「ネ」や「ヨ」を入れて不自然にならない最小のまとまり(自立語+付属語)で区切る。
・手順4(要素検証):「人間が(ネ)/担当する(ネ)/仕事は(ネ)/これらに(ネ)/限定されて(ネ)/いる(ネ)/というのは(ネ)」と区切る。「~ている」の「いる」が補助動詞として独立した文節になる点に注意して数える。
・結論:2(七文節)
問九 空欄6・7に入る語句の組み合わせ
・手順1(設問要求):社会の分断に関する文脈に合う、6と7の語句の組み合わせを選ぶ。
・手順2(根拠範囲):第三の危機「社会の分断」を論じている段落(排除と閉鎖のメカニズム)。
・手順3(論理整理):社会の下位に位置づけられた人々が、不安や不満を「自分よりも弱い他者」へ向ける心理(6)。また、事実に直面しても自分の信念を変えたくないため、事実を見ようとしない心理(7)。
・手順4(要素検証):不満を自分より弱い存在へ向けるのだから「外部の弱者に投射」が論理的に正しい。「強者に委託」「内部に貯蔵」は文脈に合わない。また事実を見ないのだから「目を塞いでしまう」が適切であり、「目を向ける」等の逆方向の選択肢を排除する。
・結論:1
問十 「近代以降の知のあり方」が生み出した現状として不適当なもの
・手順1(設問要求):近代科学の専門化が生み出した負の側面として、本文と合致しないもの(不適当なもの)を選ぶ。
・手順2(根拠範囲):より根本的な原因である「科学的知識の分野化・専門化」について論じている段落。
・手順3(論理整理):知の専門化により、部分や個別の要素については詳しくなったが、その反面、「複雑な全体像(生態系などの相互作用)」を見失ってしまったのが現状である。
・手順4(要素検証):2・3・4は「全体を見失う」「負の側面が軽視される」「一般人が理解できない」という本文の批判に合致する。1は「自然を分解的に分析することで、生態系の全体性まで把握できている」としており、筆者の「全体性を見失った」という批判と完全に逆転しているため排除(特定)する。
・結論:1
問十一 「さまざまな場所で生じている格差」の例として不適当なもの
・手順1(設問要求):本文の文脈における「格差」の具体例として不適当なものを選ぶ。
・手順2(根拠範囲):科学の専門化がもたらした「教育と知識の格差」について論じている段落。
・手順3(論理整理):ここで論じられている格差の因果関係は、「知識が高度に専門化する」→「高度な教育へのアクセスの差が生まれる」→「社会的な階層・格差が固定化する」という構造である。
・手順4(要素検証):1・3・4は、教育の機会や専門知識の獲得が社会的格差に直結するという因果に沿っている。2は「民族や人種の紛争による富の収奪」であり、一般的な社会問題としては存在するが、本文の論理軸からは逸脱しているため排除する。
・結論:2
問十二 「哲学における対話の伝統は、渾沌を蘇らせる」の説明
・手順1(設問要求):「渾沌を蘇らせる」という比喩的表現が、本文の文脈においてどのような意味を持つかを選ぶ。
・手順2(根拠範囲):最終段落付近の「対話」と「全体性の回復」に関する記述。
・手順3(論理整理):近代科学によって知が細かく「分断(分類)」されてしまった。それに対し、哲学の「対話」は、分断された知や人々を再び関係づけ、失われた「全体性(渾沌=分断される前の豊かな全体像)」を回復させる役割を持つ。
・手順4(要素検証):1の「科学技術を一つの手法に統一」、3の「専門化を中止」、4の「曖昧な存在にしていく」は、いずれも「対話によって関係性を結び直し、全体性を回復する」という筆者の主張を歪曲しているため厳密に排除する。
・結論:2
問十三 本文内容と一致するもの
・手順1(設問要求):本文全体の内容と合致する選択肢を選ぶ。
・手順2(根拠範囲):文章全体(特に「社会の分断」の構造と「哲学の対話」の役割)。
・手順3(論理整理):現代社会の分断は、異質な他者を排除し社会を「閉鎖」しようとする傾向と、多様な他者を受け入れ社会を「開放」しようとする傾向との衝突によって深刻化している。
・手順4(要素検証):1は「教育システムの改善だけで解決できる」という単純化。2は「解消手段はない」という虚無主義。4は「哲学が他の学問より高い知識水準を持つ」という優劣論。これらはすべて本文の論旨(対話による再統合の可能性)から逸脱している。3の「排除(閉鎖)と受け入れ(開放)の対立による分断」が本文の構造と完全に一致する。
・結論:3
授業ではここまで扱う:論理の方向性(原因と結果、分断と統合)の追跡
本記事では、各設問における因果関係の逆転や、論理の飛躍を排除するプロセスを解説した。しかし、実際の授業においては、これを単なる「今回の正解」として終わらせることはない。他の抽象的な論説文にも応用できる論理の読み方を、客観的で汎用的な手順として整理する。
今回のように、環境・AI・格差など複数のテーマが展開する長文論説文では、個別の知識を暗記するのではなく、以下の枠組みを用いて「現象」から「より根本的な原因」、そして「対応の方向性」への推移を構造化する。
- どのような現象・状況があるか(表面的な危機)
- 筆者はそこにどのような共通原因を見ているか(より根本的な原因)
- そこからどのような対応が導かれるか(対応・帰結)
今回の河野哲也『人は語り続けるとき、考えていない』の論理展開にこの手順を当てはめると、次のように可視化される。
| 分析ステップ | 環境問題 | 人工知能(AI) | 社会の分断 |
| 1. 表面的な危機 | 自然の回復力を超える負荷と環境破壊 | 求められる能力の変化と雇用不安 | 異質な他者の排除と階層の固定化 |
| 2. より根本的な原因 | 自然を分解して捉え、生態系の全体像を見失った | 情報技術が高度化・専門化し、一般の人々がその根本部分を理解・選択しにくくなる | 知識や教育の専門化が、社会階層の分断を助長した |
| 3. 対応の方向性 | 専門化によって分断された「知」を、哲学的な「対話」によって再び結び合わせ、全体性を回復する | (同左) | (同左) |
重要なのは、環境やAIに関する一般常識で選択肢を選ぶことではない。本文中で筆者が「何が原因で、何が結果として生じているか」という論理の方向性を客観的に整理することである。この関係を読解手順として整理しておけば、別の記述問題や内容一致問題でも、因果関係が逆転しているダミー選択肢を見抜きやすくなる。
【専修大学松戸高校】国語の対策と復習手順
今回の2025年度大問1では、多岐にわたる具体例の中から、より根本的な原因と結果の因果関係を正確に抽出する論理的な情報処理が求められている。対策において、感覚的な要約や、テーマに関する背景知識の暗記だけに頼る学習は避けるべきである。
本文の内容を理解することと、初見の設問で正答までの手順を再現することは別である。問四や問十で見られた「因果関係の逆転を見抜く手順」や、問十二の「比喩表現を本文の対立構造に置き換える手順」を他の過去問にも適用すると、読解手順の再現性を確認できる。
感覚だけで判断せず、常に「本文上の根拠は何か」「どの現象が原因で、何が結果として生じ、筆者はそれをどう評価しているのか」を本文と照合し、自分の言葉で説明できる状態にすること。こうした客観的な手順(設問要求の確定、根拠範囲の限定、誤答パターンの厳密な排除など)を繰り返すことが、初見問題に対する読解と得点の再現性を高める。

コメント