※本記事は、客観的分析のため『だ・である調』で統一しています。
【2025年度千葉県公立】国語大問4解答解説|齋藤亜矢『ルビンのツボ』と対比構造の型
高校入試の論説文・評論文では、感情や芸術を科学的な視点と結び付けて考察する文章が出題されることがある。2025年度の千葉県公立高校入試で出題された齋藤亜矢の『ルビンのツボ――芸術する体と心』でも、まさにこの「サイエンス(科学)」と「アート(芸術)」の境界線を認知科学のアプローチで解き明かす、文理横断的なテーマが扱われている。
この「一般的な論理(サイエンス)」と「固有の表現(アート)」という対比構造をインプットしておくことは、論理展開の先を予測しやすくなるという点で読解の強力な武器となる。しかし、テーマや知識を知っているだけでは、入試本番で合格点は取れない。巧妙に加工された選択肢の罠を見抜き、条件を満たす記述解答を作成するには、本文の論理関係を客観的に辿る「思考手順」の言語化が不可欠である。
※当研究所が実際の指導現場で用いている「完全版解説資料(生徒配布用コラム・講師用指導メモ収録)」のPDFを、本記事の末尾にて特別公開している。本質的な読解指導の基準として、ぜひダウンロードして活用されたい。
齋藤亜矢『ルビンのツボ』の要約と全体構造
論説文の分析において重要なのは、筆者がどのような「比較軸」を設定し、二つの概念の相違点と共通点を整理しているかを捉えることである。本問では、「サイエンス」と「アート」という二つの領域が対比されているが、本文で「対極に位置するわけではない」と明言されている通り、両者の「共通点」が軸として設定されていることに注意しなければならない。
| 比較要素 | サイエンス(科学) | アート(芸術) |
|---|---|---|
| 出発点(共通) | 身のまわりの出来事に目を向け、「!」と心を動かされること | 身のまわりの出来事に目を向け、「!」と心を動かされること |
| 「!」の変換 | 「!」を「?」に変え、問いを立てて答えを追究する | 「!」をかたちや音に表現する |
| 重視するもの | だれにでも当てはまる一般化可能な論理 | ほかの誰とも同じではない「わたし」の表現 |
| 主観の扱い | 「わたし」の主観は排除される | 「わたし」がなければはじまらない |
| 答え・解釈の扱い | 一般化可能な答えを、無理のない論理で追究する | 感じ方や解釈に、たった一つの正解はない |
この構造をマクロな視点で視覚化しておくことで、「違い」を問われているのか「共通点」を問われているのかを見失うことなく、設問の要求に対して冷静にアプローチすることが可能になる。
【大問4】各設問の解答解説と客観的な思考プロセス
各設問は、単なる「結果(正答)の理由」として暗記するのではなく、本番で受験生が自力で再現できる客観的な「思考手順」として処理する必要がある。本問の読解手順を確認しやすい代表的な設問を解剖する。
【内容説明】文脈から用語の定義を特定する型(1)
傍線部A「外れ値」について、ここでの説明として最も適当なものを一つ選ぶ。
- 手順1(設問要求):本文中における「外れ値」という言葉の、筆者独自の定義(意味)を特定する。
- 手順2(根拠範囲):傍線部Aの直前にある「条件をそろえれば毎回同じ結果になる」「データは平均化され」というサイエンスの前提部分。
- 手順3(論理整理):サイエンスが目指すのは、誰にでも当てはまる一般的な結論である。したがって、一回限りの出来事や偶然性の強いものは、一般的な結論を導くための根拠にしにくいため「外れ値」として扱われる。
- 手順4(選択肢比較):
- ア(例外だからこそ注意して扱うべき)は、サイエンスでは排除されることが多いという本文の記述と矛盾するため不適切。
- イ(でたらめで使用する価値のない)は、「外れ値=誤り・無価値」という本文にない過剰な評価を加えているため不適切。
- エ(正解には至らないデータ)は、データそのものが正解に至らないのではなく、一般的な結論の根拠にしにくいだけであるため、論理のすり替えにあたる。
- 結論:正答は「ウ(一般的な結論を導けないようなデータ)」。
【空欄補充】対比構造から属性を埋める型(2)
傍線部B「わたし」の存在について説明した文を完成させるため、空欄Ⅰ・Ⅱに入る言葉をそれぞれ一つ選ぶ。
- 手順1(設問要求):サイエンスにおける「論理」の性質(Ⅰ)と、アートにおける「わたし」の性質(Ⅱ)をそれぞれ特定する。
- 手順2(根拠範囲):本文前半のサイエンスとアートの性質を比較している段落全体。
- 手順3(論理整理):サイエンスは研究者個人の主観を排し、誰にでも当てはまる論理を重んじる。対してアートは、平均化されない固有の表現を重んじる。
- 手順4(選択肢比較):
- Ⅰについて:アの「矛盾のない平均化された」は、本文中の「データは平均化される」と「無理のない論理」を混ぜ合わせた表現である。平均化される対象はデータであり、空欄Ⅰで求められている論理の性質は「一般化することができる」であるため不適切。イ(一般化することができる)はサイエンスの性質と完全に一致する。ウ(無理のない表現で解釈できる)は前後の接続が不自然。
- Ⅱについて:アートにおける「わたし」の性質として、エ(対極に位置するわけではない)は文脈に合わない。オ(ほかのだれとも同じではない)はアートの固有性と完全に一致する。
- 結論:Ⅰの正答は「イ」、Ⅱの正答は「オ」。
【共通点の抽出】分岐する前の出発点へ戻る型(3)
傍線部C「共通するもの」の説明として、最も適当なものを一つ選ぶ。
- 手順1(設問要求):サイエンスとアートに共通するものの説明を特定する。
- 手順2(根拠範囲):具体例(内藤礼の作品と木漏れ日の研究)の直後にある、「どちらも核となるのは〜」の段落。
- 手順3(論理整理):両者の違いを比べるだけでは正答できない。「!」を感じた後、サイエンスは「?」へ、アートは表現へ進む。したがって、分岐後の行動ではなく、分岐する前にある共通の出発点を確認する。
- 手順4(選択肢比較):
- イ(小さな疑問でも解決をはかろうとする)やエ(新たな発見につなげようとする)は、主にサイエンス側の特徴であり、アートの目的を十分に表していない。
- ウ(自己の成長を意識しようとする)は本文にない記述。
- ア(身のまわりの出来事に目を向け、心を動かされること)は、両者が分岐する前の共通根源の記述と完全に一致する。
- 結論:正答は「ア」。
【記述】条件指定と要素結合の型(6)(b)
筆者の別の文章を参考に、空欄Ⅱに入る内容を、「!」「わたし」「表現」の三つの言葉をすべて用いて、40字以上50字以内で書く。
- 手順1(設問要求):アートに向き合う際、たった一つの正解がないからこそ可能になることを、指定語句を用いて規定字数で説明する。
- 手順2(根拠範囲):参考文章の「少しだけ頭をゆるめておく」「からだを通して感じる」という箇所と、本文中のアートの性質。
- 手順3(論理整理):知識や既成の解釈だけで作品を判断するのではなく、頭を少しゆるめ、からだを通して感じることで、鑑賞者自身(わたし)だけの感動(!)を作品に見つけることができる、という論理の流れを作る。
- 手順4(答案構成):必須要素を分解し、文末の「ことができる」に接続するよう結合する(空欄内に句点は含めない)。
- 【方法】少しだけ頭をゆるめ、からだで感じることで、
- 【主体と発見】わたしだけの「!」を
- 【対象】アートの表現から見いだす
- 結論(正答例):「少しだけ頭をゆるめ、からだで感じることで、わたしだけの『!』をアートの表現から見いだす」(43字)
授業ではここまで扱う:対比構造からの「共通点」抽出の手順
本記事では各設問を処理するための手順を提示したが、実際の授業において「サイエンスは一般化、アートは固有性」とこの文章特有の知識だけを暗記させることには意味がない。高校入試の国語で求められるのは、初見の論説文であっても、筆者が設定した比較軸を整理し、設問条件に沿って判断する力である。
実際の授業では、対比構造を持つ文章を読む際、違いだけを追うのではなく、以下の3段階に分けて「共通点」を抽出する訓練を行っている。多くの受験生は「対比=違い」にばかり気を取られ、問(3)のような共通点を問う引っかけ問題で失点しやすいからである。
| 読解プロセス | 思考のステップ | 本文での適用例 |
|---|---|---|
| 1. 相違点の抽出 | 対比されている2つの概念の「違い」を言語化する。 | サイエンスは「問いと答え(一般化)」、アートは「表現(固有性)」。 |
| 2. 比較軸の特定 | その2つが「どのような場面・基準」で比べられているかを見抜く。 | 日常の美しさ(木漏れ日など)に触れたあとの「アプローチの仕方」。 |
| 3. 共通根源の発見 | アプローチが分岐する「前」の段階にある共通の出発点を確認する。 | どちらも、身のまわりの出来事に目を向けて「!」と感じることから始まっている。 |
この「相違点 → 比較軸 → 共通根源」というプロセスは、他の論説文でもそのまま転用できる実践的な読解手順である。重要なのは、特定の図表の形を固定して覚えることではない。文章の中で2つのものが比べられたとき、状況の変化(どこまでが同じで、どこから違うのか)を冷静に捉え、別の問題にも転用できる処理手順として身につけさせることである。
【千葉県公立高校】国語の対策と復習手順
高校入試の国語において、「今回はたまたま知っているテーマだったから読めた」という感覚だけで終わらせてしまう受験生は少なくない。しかし、本文の内容をふんわりと理解することと、初見の設問で正答までの手順を制限時間内に再現することは全く別である。合否を分けるのは、曖昧なセンスを排し、選択肢の罠や記述の条件を本文の記述に基づいて徹底的に処理する「正しい手順」の反復である。
自己流の学習(何となく選択肢を選び、答え合わせをして解説を読むだけの漫然とした演習)だけでは、自身に不足している処理の甘さに気づきにくい。客観的な判断手順を反復し、自らの言葉で明確に言語化できるようになることが、本番での確実な得点力に繋がるのである。
【特別公開】授業用完全版PDF(解説資料・コラム・教務メモ)
本記事で解説した思考プロセスは、習志野受験研究所(新・個別指導アシスト習志野校)で行っている読解指導の一部を抜粋したものである。実際の授業で生徒に配布している「完全版テキスト(大問4解説部分のみ)」を、本記事限定でPDFとして公開する。
【収録内容】
- 生徒配布用 解答解説(フルバージョン)
本記事で紹介した客観的プロセスに加え、すべての選択肢の正誤理由を網羅した実戦的な復習資料。 - 生徒配布用 付属コラム「お化け屋敷が楽しいのはなぜ?」
灘高をはじめ、全国の高校入試で頻出する「認知科学」のテーマを題材にした、読解への知的好奇心を刺激する読み物。 - 【特別収録】授業導入用の教務メモ(雑談ネタ)
講師が授業の冒頭で生徒に語りかける「導入トーク」の台本メモ。他県の出題事例などを交え、国語への心理的ハードルを下げるための実際の授業の空気感を収録。
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