【2025年度流通経済大付属柏高校・国語】大問3解説|山竹伸二『「認められたい」の正体』対比と因果の処理

※本記事は、客観的分析のため『だ・である調』で統一しています。

目次

導入:自由と承認の逆説と客観的処理

高校入試の国語では、現代社会の構造的な変化が人間の心理にどのような影響を与えたかを論じる論説文が出題されることがある。本問(山竹伸二『「認められたい」の正体』)においては、「動物と人間」の対比と、「近代以前から近代化を経て現在へ」という時代変化を軸に、近代化によって人間の自由が拡大する一方、現在では社会共通の価値基準が弱まり、価値観が多様化したことで強い「承認不安」が生じ、結果的に身近な他者への同調によって自らの自由を抑制するという逆説的な構造が描かれている。このように、社会の変容が個人の内面にもたらしたパラドックス(逆説)の枠組みを押さえておくことは、筆者の主張や因果関係を整理する有効な補助線となる。

しかし、そうした論説文のテーマや背景知識を知っているだけで、選択肢問題に正答できるわけではない。本番で過不足のない答案を作成し、精緻な選択肢を判定するためには、対比構造から筆者の論点を抽出し、設問が問う因果関係と選択肢の要素を厳密に照合する客観的な「思考手順」の言語化が不可欠である。本記事では、社会と個人の関係性を論じた論説文に対する客観的な読解手順を整理する。

『「認められたい」の正体』(山竹伸二)の要約と全体構造

本文は、人間特有の「承認欲望」の性質を明らかにしたうえで、近代以前から現在に至るまでの価値観の変化が、現代人にどのような承認不安をもたらし、結果として人間の自由をどう抑制しているかを論じている。

読解の前提として、本文全体が以下のように「対比構造と因果の連鎖(マクロな視点)」で展開していることを整理しておくことで、各設問が文章のどの局面を根拠としているのかを客観的に位置づけやすくなる。

構造の展開具体的な内容該当する設問
承認欲望の人間的性質動物の自己保存欲求に対し、人間は承認のために生命を危険にさらすことがある。問1、問2
近代以前の承認共通の価値観と固定された役割により、承認を得る基準が明確だった。問3 d、問4
近代化と自由の拡大伝統的拘束から自由になる一方、近代以降もしばらくは社会共通の価値観が存在した。本文全体の前提
現在の価値観の多様化共通の価値基準が弱まり、何をすれば承認されるかが不透明になる。問5、問8
承認不安と空虚な承認ゲーム安定した基準を失い、身近な他者から直接承認されることを強く求める。問6
自由の逆説的な抑制承認を失わないため周囲へ同調し、自らの自由を抑制する。問3 i、問7

このように、本大問は「承認欲望」という単語だけを追うのではなく、時代背景の変化に伴って承認のあり方がどのように変化し、それが現代人の行動をどう変えてしまったかという因果関係の流れを追跡することが求められる。

【大問3】全問解答一覧

各設問の解答は以下の通りである。

設問解答
問1
問2
問3 d
問3 i
問4
問5
問6
問7
問8

以下では、このうち他の初見問題にも転用しやすい、対比構造の処理や因果関係の照合を中心に、解答までの客観的な思考手順を詳しく解説する。

【大問3】各設問の解答解説と思考手順

問4 理由説明における対比の利用

  • 手順1(設問要求):傍線部e「他者の承認を強く意識する必要はなかった」のはなぜか。その理由として最も適切なものを選択する。
  • 手順2(根拠範囲):近代以前の社会について述べられている段落(「社会共通の伝統的な価値観のなかで個人の役割は固定されていたため」など)に限定する。
  • 手順3(論理整理):近代以前は「共通の価値基準が存在する」ため、「どのように行動すればよいか分かる」。その結果、「基準に従えば周囲から承認される」ので、あえて「承認そのものを強く意識する必要がない」という論理関係を整理する。
  • 手順4(選択肢比較):アは「個人より社会が重視されたことで価値観が意味を持たなくなった」とするが、本文と逆である。ウは「人生の目標も明確であった」までは本文と関連するが、そこから「なぜ承認を強く意識しなくてよかったか」の直接的な説明が不足している。エはキリスト教のみに限定しており不適切。オは言葉の有無に論点をすり替えている。イのみが「共通の価値観があったために容易に他者の承認が得られたから」という、原因から結果への論理を正確に説明している。
  • 結論:イを正答とする。

問6 比喩的表現の因果関係

  • 手順1(設問要求):傍線部g「空虚な承認ゲーム」と表現している理由として、最も適切なものを選択する。
  • 手順2(根拠範囲):現在において「社会共通の価値観が弱い」状態から、「身近にいる他者の直接的な承認が強く求められるようになり」と展開する段落に限定する。
  • 手順3(論理整理):「ゲーム」という言葉だけでなく、なぜ「空虚」なのかを分解する。社会共通の安定した価値基準がないため、身近な他者から承認を得ても、それは一時的な満足にとどまり、自己価値を安定して支えるものにはなりにくい。そのため、他者からの承認にすがる状態が続くという関係を整理する。
  • 手順4(選択肢比較):アは「自分の目標を失う」としているが、そこまでが表現の直接の理由ではない。イは「承認されるのは容易」としており、本文の「簡単には得られない」と矛盾する。ウは「自分らしく生きることとは両立しない」と断定しており過剰である。エは周囲の承認を「社交辞令」と歪曲している。オのみが、承認を得ても一時的な満足にとどまり、再び承認を求めることになるという循環を正確に説明している。
  • 結論:オを正答とする。

問8 本文全体を踏まえた因果の照合

  • 手順1(設問要求):傍線部c「他者の承認が、なかなか簡単には得られない」のはなぜか。本文全体を踏まえて最も適切なものを選択する。
  • 手順2(根拠範囲):近代化を経て現在へと至る過程で、価値観がどのように変容したかを説明している本文全体の構造を範囲とする。
  • 手順3(論理整理):「価値観の多様化」によって「共通の承認基準が弱まる」。その結果、「何をすれば認められるかが不透明になる」ため、「他者の承認を容易には得られなくなる」という社会構造の変化を整理する。
  • 手順4(選択肢比較):アは「承認のハードルが上がった」とする競争構造を持ち出しており不適切。ウは「国家の発展を理想とする価値観」を理由としており本文の論点とずれる。エは「身の危険を顧みず行動する機会が減った」とし、前半の具体例と現代の状況を混同している。オは「他者への関心は低くなった」とするが、現代は身近な他者の承認を強く求めているため逆である。イが、価値観の多様化によって容易に他者を承認しなくなった(共通の承認基準が失われた)という構造変化を的確に突いている。ここでの「容易には他者を承認しなくなった」は、人々が意図的に他者を認めなくなったという意味ではない。価値観の多様化によって、同じ行為を同じ基準で評価しにくくなったということである。
  • 結論:イを正答とする。

授業ではここまで扱う:選択肢問題における「因果関係の照合」

本記事で解説した問4のように、論説文の理由を問う選択肢問題では、単に「本文に書かれているキーワードが含まれているか」という感覚的な探し方をしてはならない。本文にある事実が書かれていても、設問の「なぜ」に対する直接的な回答になっていなければ誤答となる。

実際の授業では、こうした問題に対して、さらに次の3段階に分けて「因果関係の照合」を処理する客観的な手順を身につけさせる。

分析の段階思考手順今回の問題(問4)における適用例
段階1:結果(問われている内容)の固定設問が要求している「結果」が何であるかを明確にする。結果は「他者の承認を強く意識する必要はなかったこと」であると固定する。
段階2:原因の抽出と論理の構築本文から、その結果を直接引き起こした原因を抽出し、論理の流れを組み立てる。「共通の価値観がある」→「役割に従えば承認が得やすい」→「だから意識しなくてよい」と組み立てる。
段階3:選択肢の厳密な照合選択肢の記述が段階2の論理と合致し、直接結果につながるかを検証する。選択肢ウは「役割と目標が明確であった」事実を含むが、承認の得やすさまで説明していないため除外し、「容易に承認が得られた」と論理をつなぐイを選ぶ。

重要なのは、選択肢を一つずつ本文と照合する前に、本文側から「原因→結果」の論理構造を組み立てておくことである。その枠組みを基準として、要素が不足している選択肢や論点のずれた選択肢を除外していくという、別の問題にも転用できる読解手順として整理することだ。

【流通経済大学付属柏高校】国語の対策と復習手順

「近代以前から近代化を経て現在へ」という社会変化の構造を知っていることと、初見の設問に対して正答までの手順を「再現できる」ことは全く別である。解説を読んで納得しただけでは、本番の緊張状態において同じ処理ができるとは限らない。

初見問題でも確実な処理を再現するためには、本記事で示した客観的な手順を徹底することが求められる。失点した問題では、単に模範解答を丸暗記するのではなく、「比喩的表現の因果関係の分解(問6)」や「選択肢問題における因果関係の照合(問4)」のどこで処理を誤ったのかを冷静に確認する。同じ手順を別の初見問題でも反復して適用し、自らの言葉で明確にできるようになることが、復習の中心となる。

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この記事を書いた人

習志野受験研究所 所長/新・個別指導アシスト習志野校 塾長

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