※本記事は、客観的分析のため『だ・である調』で統一しています。
【2025年度敬愛学園高校・国語】大問3解答解説|『枕草子』の言葉遊びと主語の逆算手順
Introduction:『枕草子』の言葉遊びと客観的処理
『枕草子』には、身近な出来事や人とのやり取りをきっかけに、清少納言の機知や言葉遊びが展開する場面が見られる。本問でも、正月七日の若菜をめぐる子どもたちとのやり取りから、「耳無草」「聞く」「菊」へと連想が広がっていく。こうした作品内の発想のつながりを押さえておくことは、一見すると断片的な会話や描写を理解する有効な補助線となる。
しかし、作品のテーマや背景知識を知っているだけで、初見の設問に正答できるわけではない。本番で正確な解答を選ぶためには、省略された主語を前後の動作から特定し、単語の意味を文脈のつながりから客観的に確定させる「思考手順」が不可欠である。本記事では、古文特有の省略やレトリックを客観的に処理する読解手順を整理する。
『枕草子』(清少納言)の要約と全体構造
本文は、正月七日の「若菜」をめぐる、清少納言と子どもたちとのやり取りを描いた一節である。
読解の前提として、本文全体が以下のような「言葉の連想(マクロな視点)」で構成されていることを整理しておくことで、各設問が本文のどの部分を根拠としているのかを客観的に位置づけやすくなる。
| 構造の展開 | 具体的な内容 | 該当する設問 |
| 発端 | 正月七日、子どもたちが作者の知らない草を持ってくる。作者が名を尋ねるが、子どもたちはすぐには答えない。 | 問32、問33、問34 |
| 応答と機知 | 子どもたちが顔を見合わせた末に「耳無草」と答える。作者は「耳がないからこちらの言うことを聞かない顔をしているのだ」と笑う。 | 問35、問37 |
| 言葉遊びの発展 | かわいらしい菊が持ってこられると、作者は再び「耳無草」を取り上げ、「あはれ」「聞く/菊」へと言葉の連想を広げる。 | 問28、問29、問36 |
このように、本文は単なる植物の紹介ではなく、子どもたちの応答をきっかけとして、清少納言の中で「耳無草」から「聞く/菊」へと言葉の連想が広がっていく構造をもつ。そして、その言葉遊びを口にしたくなるが、子どもたちには聞き入れてもらえそうにないと考えるところまでを押さえる必要がある。
【大問3】全問解答一覧
各設問の解答は以下の通りである。
| 問25 | 問26 | 問27 | 問28 | 問29 | 問30 | 問31 | 問32 | 問33 | 問34 | 問35 | 問36 | 問37 |
| ア | ウ | エ | ウ | イ | イ | ウ | ア | ウ | ア | エ | エ | ア |
以下では、このうち他の初見問題にも転用しやすい主語の特定や語彙の文脈処理を中心に、解答までの客観的な思考手順を詳しく解説する。
【大問3】各設問の解答解説と思考手順
問33:省略された主語の特定
- 手順1(設問要求):傍線部Ⅱ「問へば」について、誰が誰に質問したのかを特定する。
- 手順2(根拠範囲):「見も知らぬ草を、子どもの取り持て来たるを、『何とかこれをば言ふ』と問へば、とみにも言はず」という一連の動作の連なりに限定する。
- 手順3(論理整理):草を持ってきたのは子どもたちである。「問へば」の直後で、子どもたちがすぐに答えず顔を見合わせている。この反応から逆算し、「作者が質問し、子どもたちが返答をためらっている」という関係を整理する。
- 手順4(選択肢比較):アは質問相手を「若菜を持ってきた人」としており不適。イとエは質問する側と答える側が逆転しているため排除する。
- 結論:本文のやり取りの構図と一致するウを正答とする。
問34:応答語「いま」の文脈処理
- 手順1(設問要求):傍線部Ⅲ「いま」を、文脈に合う現代語に置き換える。
- 手順2(根拠範囲):「とみにも言はず、『いま』など、これかれ見合はせて」という、発言の前後を含む一文のまとまりに限定する。
- 手順3(論理整理):「とみにも言はず(すぐには答えず)」という直前の状態と、「これかれ見合はせて(互いに顔を見合わせる)」という直後の行動から、「いま」を時間的な「現在」として直訳するのではなく、この場面では、すぐに答えられず「さあ……」と言いよどむ応答語のように機能していると捉える。
- 手順4(選択肢比較):イ(連れてきます)、ウ(調べてきます)、エ(今お答えします)は、いずれも直前の「すぐには答えず」や顔を見合わせる描写といった本文の情報から逸脱し、勝手に具体的な行動を加えているため排除する。
- 結論:ためらいの状況に最も適合するア「今はわかりません。」を正答とする。
問36:掛詞の処理
- 手順1(設問要求):傍線部Ⅴ「きく」が、何と何を掛けた掛詞なのかを選択する。
- 手順2(根拠範囲):本文後半の「耳無草」「聞かぬ顔」「菊」が連続して登場する文脈に限定する。
- 手順3(論理整理):「耳」「聞かぬ」という聴覚に関連する文脈と、植物としての「菊」が登場する文脈という、二つの意味領域が重なっていることを整理する。
- 手順4(選択肢比較):アとイに含まれる「効く・利く」に対応する文脈は本文に存在しない。ウは植物の「菊」が欠落している。エのみが、聴覚の「聞く」と植物の「菊」の両方の文脈を過不足なく回収している。
- 結論:エを正答とする。
問37:内容合致の判定
- 手順1(設問要求):本文全体の内容と合致するものを一つ選ぶ。
- 手順2(根拠範囲):子どもが「耳無草」と答えた直後の、「むべなりけり。聞かぬ顔なるは」と作者が笑う場面を中心に確認する。
- 手順3(論理整理):子どもたちの答え(耳無草)に対し、作者が「耳がないから話を聞かない顔をしているのだ」と言葉遊びとして解釈し、そのやり取りを楽しんで笑っているという因果関係を整理する。
- 手順4(選択肢比較):イは作者が重ね合わせている対象がずれている(植物の姿ではなく、聞かない顔)。ウは「あきれ返っている」という否定的な感情を加えており不適。エは「意図的に黙っていた」と子どもの心理を拡大解釈しているため排除する。
- 結論:出来事と作者の反応が正しく結びついているアを正答とする。
授業ではここまで扱う:短い応答語の文脈確定と状況の逆算
本記事で解説した問34のように、古文における短い会話表現は、現代語の辞書的な第一義をそのまま当てはめると文脈を見失うことが多い。
実際の授業では、こうした問題に対して、さらに次の3段階に分けて「前後の状況から意味を逆算する」客観的な手順を身につけさせる。
| 分析の段階 | 思考手順 | 今回の問題(問34)における適用例 |
| 段階1:辞書的意味への固執を捨てる | 現代語と同じ形であっても、直訳が不自然な場合は、その場面の状況に応じた別の機能(言いよどみなど)がないか疑う。 | 「いま」を時間的な「今から~する」と訳すと、前後の行動と合わないことに気づく。 |
| 段階2:発言前の状態の確認 | 発言の直前に、人物がどのような状態に置かれているかを確認する。 | 「とみにも言はず」から、すぐには答えず、返答をためらっている状態を確認する。 |
| 段階3:発言後の行動との統合 | 発言の直後にどのような行動をとったかを確認し、全体を矛盾なく説明できる意味を確定する。 | 「互いに顔を見合わせた」という行動と統合し、「さあ……」というためらいの機能を確認し、選択肢では「今はわかりません」が最も近いと判断する。 |
重要なのは、古文単語を「1対1の対訳」として固定して暗記することではない。前後の状況の変化(動作や表情の描写など)を捉え、文脈全体と矛盾しない意味を確定させるという、別の問題にも転用できる読解手順として整理することだ。
【敬愛学園高校】国語の対策と復習手順
『枕草子』のような有名作品のあらすじや文学史の知識を「知っている」ことと、初見の設問に対して正答までの手順を「再現できる」ことは全く別である。解説を読んで納得しただけでは、本番の緊張状態において同じ処理ができるとは限らない。
初見問題でも確実な処理を再現するためには、本記事で示した客観的な手順を徹底することが求められる。失点した問題では、単に正解を書き写すのではなく、「省略された主語の逆算(問33)」や「前後の行動からの文脈確定(問34)」のどこで処理を誤ったのかを冷静に確認する。同じ手順を別の初見問題でも反復して適用し、自らの言葉で明確にできるようになることが、復習の中心となる。

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