【2023年度千葉県公立】国語大問4(鹿毛雅治『モチベーションの心理学』)解答解説|対比・役割分担・因果を構造化する

※本記事は、客観的分析のため『だ・である調』で統一しています。

鹿毛雅治『モチベーションの心理学』を取り上げる。現代の行動経済学や認知心理学におけるダニエル・カーネマンの二重プロセス理論(システム1とシステム2)といった理論的枠組みは、入試現代文でも扱われることのある論点である。

本文では、「意識して決めてから行動する」という一般的な理解だけでは、人間の行動を十分に説明できないことが示される。無自覚な反応が意識的判断に先行する場合もあり、そこから意識と非意識を二重プロセスとして捉え直す議論へ展開していく。

こうした理論的枠組みを知ることは、読解の前提として大いに役立つ。しかし、テーマ(知識)を知っているだけでは解けない。本番で正答を導くには、客観的な「思考手順」の言語化が不可欠である。本稿では、客観的な「思考手順」を抽出し、選択肢や記述問題を厳密に処理する具体的なプロセスを提示する。

目次

鹿毛雅治『モチベーションの心理学』の要約と論理構造

本文は、人間の行動が必ずしも意識的な決定に基づくものではないという事実から出発し、意識と非意識の二つのシステムがどのように役割を分担し、心身のエネルギーを効率化しているかを論じたものである。読解にあたっては、以下のマクロな視点と、対比・役割分担・因果の構造を整理しておくことが大前提となる

構成論理展開(マクロな視点)具体例・キーワード
前半単純な常識を揺さぶる(常識と事実の対比)自動販売機での視線の動き、意識が行動を決めるという常識
中盤意識/非意識を別システムとして整理システム1(速い・自動的)、システム2(遅い・意識的)
後半両者を対立させず、役割分担として統合(因果関係)最小努力の法則、心身のエネルギーの節約

【大問4】各設問の解答解説と思考プロセス

本番で受験生が再現すべき、客観的な思考手順を以下に明示する。各設問の結論(正答)をアンカーとし、そこへ至る処理の型を提示する。

(1)「広く」と同じ品詞

  • 手順1(設問要求): 傍線部「広く」と同じ品詞のものを選択肢から特定する。
  • 手順2(根拠範囲): 傍線部「広く」という単語そのものの文法的性質。
  • 手順3(論理整理): 語を終止形に戻し、活用するかを確認する。「広く」は「広い」の連用形であり、形容詞であると確定させる。
  • 手順4(選択肢比較): 活用しない副詞(ア:ようやく)、動詞(ウ:あふれる)、形容動詞の連体形(エ:静かな)を排除する。「楽しい」は形容詞である。
  • 結論: 正答はイ。

(2)空欄A

  • 手順1(設問要求): 空欄Aに入る最も適当な言葉を選択する。
  • 手順2(根拠範囲): 心理学者たちが新事実に驚いたという記述の直後、「『A』と、彼らも信じていたのである」という一文。
  • 手順3(論理整理): 「驚いた新事実(無意識が意識に先行する)」の逆、つまり「それまで信じられていた従来の常識」が空欄に入るという対比関係を復元する。
  • 手順4(選択肢比較): 本文冒頭の常識(意識して決める→行動する)と合致するものを残し、人間を「不合理な存在」とするイや、「不可解な存在」とするエなど、従来の常識から外れた内容を排除する。
  • 結論: 正答はア(人間は意識に基づいて行動する合理的な存在だ)。

(3)システム1・システム2の整理

  • 手順1(設問要求): 二つのシステムの性質・役割・具体例を表に分類する。
  • 手順2(根拠範囲): 本文中盤の「2つのシステム」について解説されている段落全体。
  • 手順3(論理整理): 選択肢を見る前に、「システム1=速い・自動的・無自覚」「システム2=遅い・意識的・監視や制御」という両者を区別する対比軸を固定する。
  • 手順4(選択肢比較): 固定した対比軸に従い、情報の供給(ア)と視線の動き(カ)をシステム1へ、行動の監視(イ)と意思決定(オ)をシステム2へと機械的に振り分ける。
  • 結論: 正答は ①ア ②ウ ③カ ④イ ⑤エ ⑥オ。

(4)Ⅰ・Ⅱ 「ハイブリッドな仕事」の内容

  • 手順1(設問要求): 「ハイブリッドな仕事」の具体的説明として、指定字数(Ⅰは22字の初めの5字、Ⅱは13字)で本文から抜き出す。
  • 手順2(根拠範囲): 本文中の「ハイブリッドな仕事」という記述の周辺。
  • 手順3(論理整理): 「ハイブリッド」とは、異なる二つのシステムが組み合わさることである。その二つがどのように働き、何と呼ばれているかを説明している箇所を探す。
  • 手順4(選択肢比較): 選択肢はないため条件照合を行う。Ⅰは「役割を分担することで、問題を効率的に解決する(22字)」が合致。Ⅱは「意識と非意識の二重プロセス(13字)」が完全一致する。
  • 結論: 正答は Ⅰ 役割を分担、Ⅱ 意識と非意識の二重プロセス。

(5)Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ 習慣とモチベーションの「効率化」

  • 手順1(設問要求): 習慣が効率化に果たす役割について、記号選択(Ⅰ)、抜き出し(Ⅱ)、および15字以上20字以内の記述(Ⅲ)を完成させる。
  • 手順2(根拠範囲): 本文終盤の「エネルギーの浪費・節約」の段落、および引用文。
  • 手順3(論理整理): 「習慣=自動化=努力不要」という性質から、習慣はシステム1に該当すると整理する。さらに、「習慣化 → システム1の作動 → 意識的努力の減少 → 心身のエネルギーの節約」という因果関係の連鎖を構築する。
  • 手順4(選択肢比較): Ⅰはシステム1に確定。Ⅱはシステム1の「コントロール感覚がない」状態を指す23字を探し、初めの3字「自分が」を抽出。Ⅲは因果関係の最終結果である「消費される心身のエネルギーを節約する(18字)」を字数内に収める。
  • 結論: 正答は Ⅰ システム1、Ⅱ 自分が、Ⅲ 消費される心身のエネルギーを節約する。

(6)文章構成

  • 手順1(設問要求): 本文全体の構成について説明したものとして適当なものを選択する。
  • 手順2(根拠範囲): 文章全体の論理展開(前半と後半の役割)。
  • 手順3(論理整理): 前半は「常識と事実の乖離」を具体例で示し、後半は「二つのシステムの性質・役割・使い分け」を説明しているというマクロな構造と照合する。
  • 手順4(選択肢比較): 学者の理論の「証明」とするアや、二つのシステムの「優劣」を判断するためとするウなど、本文に存在しない関係性や目的を追加している誤答パターンを厳密に排除する。特にイのように、「心理学」「調査」など本文に近い語が並んでいても、それらが文章中で果たす役割が本文と一致するとは限らない点に注意して排除する。
  • 結論: 正答はエ。

授業ではここまで扱う:対比構造から役割分担・因果関係への展開

本記事で解説した問(3)や問(5)のように、論説文では対比される概念を整理し、そこから役割分担や因果関係を導き出す力が要求される。実際の授業では、単に「システム1はこれ、システム2はこれ」と結果を教えるのではなく、初見問題に転用できる「型」として、さらに次の段階に分けて構造を追跡する訓練を行っている。

分析手順授業で身につけさせる「読解の型」本文への適用例
第1段階対比軸の固定と分類システム1(無自覚・自動)とシステム2(意識的・努力)という対比軸を作成し、情報を振り分ける。
第2段階具体と抽象の対応「習慣」という具体例を、システム1の「自動的・努力不要」という抽象的な性質へ紐づける。
第3段階因果関係の構築と記述「習慣化」→「システム1の作動」→「努力の減少」→「エネルギーの節約」という因果の連鎖を構築し、解答枠に圧縮する。

重要なのは、対比となる単語をただ見つけることではない。そこから状況の変化や因果関係の連鎖を捉え、記述問題にも転用できる読解手順として整理することだ。このように事実と因果関係を分離・構築する習慣を身につければ、初見問題でも判断根拠を再現しやすくなる。

【千葉県公立高校】国語(論説文)の対策と復習手順

以上の客観的な分析から明らかなように、現代文の解答は「なんとなく意味が通る」という判断ではなく、本文根拠(対比軸の固定や因果関係の構築)と論理関係を確認する習慣によって導き出されるべきである

本文の内容を理解することと、初見の設問で正答までの手順を再現することは全く別である。今後の復習では、正解・不正解だけを記録するのではなく、「どの対比構造をマーカーとして、どの本文箇所を根拠に、どの誤答要素(本文語句の流用や目的のすり替えなど)を排除したか」まで再現できる状態を目標にしたい。

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この記事を書いた人

習志野受験研究所 所長/新・個別指導アシスト習志野校 塾長

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