【2025年市川高校】国語大問1「記憶と忘却」解法アナトミー|集団と個人の対比構造を分析

※本記事は、客観的分析のため『だ・である調』で統一しています。

目次

Introduction

本文は、田中祐介の論考「記憶と忘却」を素材とし、私たちが過去の災害をどのように記録し、忘却に抗うのかを論じた文章である。

千葉県内の難関私立高校である市川高校をはじめ、上位校の現代文でも「記憶」「歴史」「個人と集団」といった抽象度の高いテーマがしばしば扱われる。ただし、「大きな歴史より個人の声が重要である」といったテーマの概要を知っているだけでは、正答には直結しない。

本問では、主に三つの構造が問われている。

  • 経験を物語化する「自伝」と、反復して書く行為を重視する「手記」
  • 数値や災害名による「集団の記憶」と、一人一人の人生を記録する「個人の記憶」
  • 記憶が保持されている状態である「憶えている」と、記憶を意識へ呼び戻す「思い出す」

正答を導くには、これらを一つの印象でまとめるのではなく、それぞれの共通点・相違点・前提関係を分けて処理する必要がある。本記事では、本文のどこを根拠とし、どの論理関係を使って正答を確定するかを設問ごとに分析する。

Macro Analysis:問3・問4を貫く「集団の記憶/個人の記憶」

本文中盤から後半、とくに問3・問4を貫く中心的な対比は、「集団化・抽象化された記憶」と「個別化・具体化された記憶」である。このマクロな枠組みを設問処理の前に整理しておくことが、読解の土台となる。

比較項目集団化・抽象化された記憶個別化・具体化された記憶
記録のされ方犠牲者数などの数値としてまとめられる一人一人の名前や人生・言葉が記録される
語りの主語「東日本大震災」という大きな物語「わたし」を主語とする個人の語り
読者への作用災害全体をまとめて把握する個人がどのように生きたかを想像させる
時間との関係大きな名称や数値だけが残ると、個人の生が見えにくくなる個人の言葉を読み継ぐことで、記憶の層が重なっていく

本文が問題にしているのは、数値や大きな災害名だけでは、一人一人の生きた証が見えにくくなることである。そこで、個人の名前や言葉を記録し、集団化された記憶を補う必要性が示されている。

Micro Analysis

問1

  • 手順1(設問要求):手記メディアにおける自己語りが、「自伝」と重なりながらも異なる特徴をもつのはなぜか、その理由を特定する。
  • 手順2(根拠範囲):傍線部①を含む段落および、その直前で語られている「自伝」の性質(物語化)に関する箇所を確認する。
  • 手順3(論理整理):「自伝」も「手記」も過去の経験に意味を与えて物語化する点では共通している。しかし、災害の手記においては、出来事を繰り返し書き綴り、語り続けるという「行為自体」が当事者を支えるという独自の機能(相違点)を持っている。
  • 手順4(選択肢比較):自伝と手記の共通点(物語化)と相違点(書き綴る行為自体の重要性)の双方を正確に押さえていない選択肢、あるいは本文にない過剰な限定を含む選択肢を厳密に排除する。
  • 結論:共通点と相違点を過不足なくまとめた「オ」を正答とする。

問2

  • 手順1(設問要求):過去の災害の記憶を「記録し続け、語り続けること」の意義が問われている理由を特定する。
  • 手順2(根拠範囲):傍線部②の直後にある、阪神・淡路大震災など過去の災害がどのように扱われてきたかを示す段落に範囲を絞る。
  • 手順3(論理整理):災害直後は社会の関心が集まるが、新たな出来事が発生すると過去の記憶は薄れ、当事者の経験も忘れ去られてしまうという因果関係を整理する。
  • 手順4(選択肢比較):忘却の原因を「社会の関心が新たな出来事へ移ること」ではなく、本文にない事情へすり替えている選択肢を排除する。
  • 結論:社会に注目される新たな出来事の発生によって古い記憶が忘れられてしまう危険性を指摘した「エ」が正答である。

問3

  • 手順1(設問要求):「生きた証」プロジェクトが、なぜ「犠牲者の個人性を取り戻す」ことを目指したのか、その理由を70字以内で記述する。
  • 手順2(根拠範囲):傍線部③を含む段落を中心に、「数値化される犠牲」と「個人の生きた証」が対比されている箇所から要素を抽出する。
  • 手順3(論理整理):犠牲者が「数」としてまとめられると個人の人生が見えなくなる(課題)→一人一人の名前や言葉を記録する(手段)→読者にその人の人生を想像させ、記憶の風化を防ぐ(目的)という論理展開を整理する。
  • 手順4(条件照合・答案構成):「数値化された一人一人の生を想像させること」と「記憶の風化を防ぐこと」の二要素を結合し、70字以内の理由の文として構成する。
  • 結論:「数値化された犠牲の一つ一つに個人の生きた証があると想像させ、犠牲者を忘れないことで、災害の記憶の風化を防ぐため。」等とする。

問4

  • 手順1(設問要求):傍線部Ⅰ〜Ⅴの表現を、記録の仕方に関連して二つのグループに分類する。
  • 手順2(根拠範囲):Ⅰ〜Ⅴそれぞれの言葉が、本文の対比構造(集団か、個人か)のどちら側に属するかを確認する。
  • 手順3(論理整理):Ⅰ(無数の一人一人)、Ⅲ(一人の人間が生きた証)、Ⅳ(「わたし」を主語にした語り)は「個別化・具体化された記憶」である。一方、Ⅱ(数値化される犠牲)、Ⅴ(「東日本大震災」という大きな名称)は「集団化・抽象化された記憶」である。
  • 手順4(選択肢比較):Ⅰ・Ⅲ・Ⅳのグループと、Ⅱ・Ⅴのグループに分かれている選択肢を探す。
  • 結論:正しい組み合わせである「ウ」を正答とする。

問5

  • 手順1(設問要求):書名が「思い出す」ではなく「憶えている」であることが適している理由を特定する。
  • 手順2(根拠範囲):最終段落の「思い出す」と「憶えている」の定義・関係性について述べられた箇所に限定する。
  • 手順3(論理整理):「憶えている」は記憶が心の深い部分に保持されている状態であり、「思い出す」はその保持された記憶を意識に呼び戻す一時的な行為である。「憶えている」状態が「思い出す」行為の前提となる、という関係を整理する。
  • 手順4(選択肢比較):この前提と結果の関係を逆転させているものや、本文にない独自の見解を展開している選択肢を排除する。
  • 結論:「思い出す」ための前提として、記憶の深層で強固に「憶えている」必要があるとまとめた「エ」が正答である。

授業ではここまで扱う:対比構造から筆者の主張の力点を特定する

実際の授業では、正答の確認だけで終わらず、初見の評論文にも転用できる読解手順として整理する。二つの概念が並べられた場合は、次の三段階で処理する。

段階思考手順本文への適用
第1段階二つの概念を特定するA=数値や災害名による集団の記憶、B=個人の名前や言葉による記憶
第2段階一方だけでは何が失われるかを確認するAだけでは、一人一人の生きた証が見えにくくなる
第3段階もう一方がどのように補うかを確認するBを記録し、読み継ぐことで、個人の生を想像させ、忘却を防ぐ

重要なのは、「集団より個人が大切だ」と単純化することではない。数値や大きな名称による把握から何がこぼれ落ち、それを個人の語りがどのように補うのかを捉えることが重要である。

Conclusion

本文のテーマに納得することと、初見の設問で正答までの手順を再現することは同じではない。

復習では、次の処理を自分の言葉で説明できるようにしたい。

  • 設問形式と解答条件を確認する。
  • 根拠として使う本文の範囲を限定する。
  • 比較されている二つの概念を特定する。
  • 共通点・相違点・前提関係のどれが問われているかを判断する。
  • 一方の概念だけでは何が失われるのかを確認する。
  • 記述問題では、「課題→手段→目的」を必要に応じて結合する。
  • 選択問題では、本文にない追加や、前提と結果の逆転を排除する。

今回の文章では、数値や大きな災害名による記憶だけでは、一人一人の生きた証が見えにくくなる。そのため、個人の名前や言葉を記録し、読み継ぐことで、故人の生を想像し、忘却を防ぐ必要があると論じられている。

また、「思い出す」という行為の前提には、記憶の深い層で「憶えている」状態がある。この関係まで整理することで、問5の書名に関する設問も処理できる。こうした客観的な手順を別の問題でも反復することで、主観的な読み込みが減り、根拠に基づく得点の安定につながる。

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この記事を書いた人

習志野受験研究所 所長/新・個別指導アシスト習志野校 塾長

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