※本記事は、客観的分析のため『だ・である調』で統一しています。
「偏差値16アップ」と書けても、当塾がそう表示しない理由──成績データを見る前に確認したい4つのポイント
塾のウェブサイトやチラシを見ていると、「偏差値15アップ」「20アップ」といった華々しい実績を目にすることがある。保護者にとって、こうした数字が塾選びの一つの判断材料になることは自然である。
しかし、成績実績を示す数字、特に「偏差値」を見る際には、その数字がどのような条件で算出されたものかを確認する必要がある。
当研究所を運営する「新・個別指導アシスト習志野校」でも、異なる模試の数字を並べれば「大幅な偏差値アップ」として宣伝できる事例は存在する。しかし、当塾では、尺度の違う数字を単純比較して実績とするような見せ方はしていない。
今回は、実際のデータを例に挙げながら、「偏差値アップ」の数字をどう読むべきか、そして当研究所および運営塾がどのような方針で成績データを公開しているかについて解説する。
そもそも「偏差値」とは何か?
統計的な算出方法の詳細は記事末尾の補足に譲るが、偏差値とは「どのテストでも共通して測れる絶対的な学力」を示す数字ではない。受験者全体の平均点や得点のばらつきを基準に、自分の得点がどのあたりに位置するかを示す相対的な指標である。
つまり、受験者集団やテストの設計が変われば、同程度の学力であっても偏差値が同じになるとは限らない。
小学生向け模試と中学生向け模試では、対象学年だけでなく、受験する生徒の構成や出題範囲、科目構成などが異なる場合がある。小学生向け模試の中には受験者が一定の学習層に偏るものがあり、高校受験向け模試には、より幅広い学力層が参加するものもある。
したがって、異なる模試の偏差値を、そのまま同じ尺度として引き算することはできないのである。
「偏差値16アップ」と書けても、そう表示しない理由
ここで、当塾に在籍している生徒の実際のデータを見てみよう。


※個人が特定できる情報は伏せて掲載している。
- (1つ目の画像)小6・11月の模試(4科):偏差値56
- (2つ目の画像)中1最初の模試(5科):偏差値72
数字だけを単純に引き算すれば、わずか数ヶ月で「偏差値16アップ」である。
この間に学力そのものが伸びていないと言いたいわけではない。問題は、16という差のすべてを「学力の伸び」と解釈することができない点にある。
小学生用模試と中学生用模試では尺度が異なるため、学力上昇分と尺度変更による差を分離できない。したがって当塾では、これを「数ヶ月の指導で偏差値を16伸ばした実績」として掲載することはない。
成績実績データを見るときに確認したい4つのポイント
塾が公開している成績実績を正しく評価するためには、見栄えの良い数字だけでなく、以下の4つのポイントを確認することが重要である。
1. 比較可能な「同じ尺度」の模試か
前述の通り、「小学生向け」と「中学生向け」の比較や、「模試会社A」と「模試会社B」の比較など、尺度の違いを調整する根拠が示されていない異なる模試の偏差値を、単純に引き算して「○ポイントアップ」とすることは適切ではない。当塾では原則として、比較可能な同一系列の模試で推移を確認している。
2. 比較している科目数は同じか
「3科目の偏差値」と「5科目の偏差値」を比較していないか。比較する科目の構成が変われば、偏差値も異なることがあるため、科目数の違う数値を単純に比較することにも注意が必要である。
3. 「誰のデータ」を掲載しているのか
「平均偏差値○ポイントアップ」「生徒の偏差値が大幅上昇」といった集計を見る場合には、誰を集計対象としているのかも確認したい。全在籍生なのか、一定期間在籍した生徒なのか、成績が上昇した生徒だけなのかによって数字の意味は変わる。
また、入塾時に学力選抜を行う塾と、幅広い学力層を受け入れる塾では、そもそもの生徒構成が異なる。したがって、異なる塾の「平均上昇幅」だけを単純比較することにも注意が必要である。
4. 途中経過も確認できるか
入塾時の結果から卒塾時までの推移なのか。それとも、比較期間の途中から都合のよい最低値と最高値だけを選んでいないか。これだけでも「○ポイントアップ」の数字は大きく変わる。学習の過程では、一時的な停滞や下降が起こることもある。
当研究所のデータ公開に対する考え方
成績実績を公開すること自体は、塾の指導内容や成果を判断するうえで重要な材料の一つになると考えている。しかし、「偏差値○ポイントアップ」という最初と最後の数字だけでは、その生徒がどの程度、どのように伸びたのかを正確に判断することは難しい。
そのため、当研究所および運営塾が公開する学習ロードマップ(ケーススタディ)では、比較可能な同一系列の模試や、同じ学校の同一基準による定期考査の推移を用いている。また、最初と最後の都合の良い結果だけを切り取るのではなく、確認できる範囲で途中の推移もすべて掲載している。
成績データは、より大きな数字を作るための材料ではない。生徒の学力がどのように推移し、その過程でどのような学習を行ったのかを、できる限り正確に伝えるための資料であると考えている。
【実際の公開例】
以下のケーススタディでは、当塾の指導方針に基づき、途中の成績下降や定期テストの推移も含めた実際の学習ロードマップを公開している。
- 【千葉県公立入試】数学の偏差値49→70。難問集に頼らず船橋東高校へ合格した学習ロードマップ
- 【数学偏差値46→64】中3・7月入塾。10月に一度下がってから伸びた学習ロードマップ
- 【数学偏差値36→63】中1・8月入塾。小学校範囲までさかのぼって立て直した学習ロードマップ
- 【数学の学年順位139位→64位】私立中高一貫校・中2夏入塾。「基本の先取り」で立て直した学習ロードマップ
- 【数学偏差値43→58】中3・9月入塾。入試までの短期間で15ポイント伸びた学習ロードマップ
- 【数学偏差値41→52】模試の上下と直前期の得点をどう見たか。国分高校合格までの学習ロードマップ
- 【中1数学100点×2】小4から先取りを開始。中3まで高水準を維持した学習ロードマップ
【補足】中学生でもわかる「偏差値の仕組み・計算方法」
なぜ「自分の得点」と「平均点」だけでは、そのテストの中での位置を正確に判断できないのだろうか。それは、テストによって受験者の点数の散らばり方が違うからである。
例えば、平均点が60点のテストで80点を取ったとする。どちらも「平均より20点高い」ことに変わりはない。
しかし、ほとんどの受験者が平均点付近に集まっているテストでの20点差と、0点から100点まで広く得点が散らばっているテストでの20点差では、集団の中での意味が異なる。
この「点数がどのくらい散らばっているか」を表す数値が標準偏差である。
一般的な偏差値は、次の式で表される。
$$偏差値 = 50 + 10 \times \frac{自分の得点 – 平均点}{標準偏差}$$
例えば、自分が80点、平均点が60点だったとする。
標準偏差が10なら、
$$50 + 10 \times \frac{80 – 60}{10} = 70$$
となり、偏差値は70である。
一方、同じ80点・平均60点でも、標準偏差が20なら、
$$50 + 10 \times \frac{80 – 60}{20} = 60$$
となり、偏差値は60になる。
自分の得点も平均点も同じなのに、受験者全体の点数の散らばり方が違うだけで、偏差値は10も変わる。
得点が平均点と同じなら偏差値50となり、平均より標準偏差1つ分高ければ偏差値60、2つ分高ければ70となる。逆に1つ分低ければ40となる。
したがって偏差値は、「何点取ったか」だけを表す数字ではない。そのテストを受けた集団の中で、自分の得点が平均からどの程度離れているかを表す数値である。
だからこそ、受験者集団や出題設計の異なる模試の偏差値を、そのまま引き算して「偏差値○ポイントアップ」と解釈することには注意が必要なのである。

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