※本記事は、客観的分析のため『だ・である調』で統一しています。
【千葉県公立入試・数学】計算を「準備運動」だと思ってはいけない。~2022年の「楽園消滅」を知らない受験生への警告~
「大問1の計算? 全問正解して当たり前だろう」 「あんなのはウォーミングアップだ」
もし受験生がそう思っているなら、あるいは保護者がそう認識しているなら、今すぐその思考を捨てるべきである。その認識は、「2021年以前の古い地図」を見ているに過ぎないからだ。
千葉県公立高校入試の数学において、かつて存在した「計算だけの平和な楽園」は、2022年の設計変更によって消滅した。
本稿では、直近の出題傾向を踏まえ、出題者側が仕掛けた「選別の意図」と、上位校合格者が無意識に行っている「処理の最適化」を整理する。
1. 『楽園』は2022年に消滅した
2021年までの千葉県数学では、序盤に「計算でリズムを作る時間」が比較的確保されやすかった。ところが2022年以降、その前提は崩れた。
現在の大問1は、構造として (1)計算 と (2)小問 に分かれている。ここは誤解してはいけない。“混在している”のではない。 しかし、もっと重要なのは別の点である。
計算が「3問で終わる」という事実だ。
つまり、受験生が「よし、計算で手を慣らしてから本番へ」と思っている間に、準備運動は終了する。大問1(1)の3問が終わった時点で、もう次は小問であり、そこから先は「実戦」である。
言い換えるなら、今の千葉の序盤はこうだ。
“軽いジョグ”ではない。スタートの合図と同時に、すでにレースが始まっている。
2. 残された3問すらも「罠」である
さらに厄介なのは、大問1(1)として残された計算3問すら、単なる作業ではなくなっている点だ。 象徴例として、2025年入試の大問1(1)③で出題された次の問題を見よ。
(x + y)² - (x - y)²
ここで差がつきやすい。問われているのは「展開できるか」ではない。“最短の手順を選べるか”である。
【典型的な処理】(展開で押し切る)
「カッコがあるから、とりあえず展開」と反射的に手を動かす。
(x + y)² = x² + 2xy + y² (x - y)² = x² - 2xy + y²
よって、 (x² + 2xy + y²) - (x² - 2xy + y²) = x² + 2xy + y² - x² + 2xy - y² = 4xy
- 所要時間(目安): 約40〜60秒
- リスク: 項が増えるほど、マイナスの分配や符号処理でミスが出やすい。これは「解き方」としては正解でも、「戦い方」としては下策である。
【上位層の処理】(形を見て公式に落とす)
上位層は、鉛筆を動かす前に「式の形」を見る。ここで見抜くべきは、これが計算式ではなく A² - B²(2乗-2乗) だという事実である。
A² - B² = (A + B)(A - B)
A=(x + y)、B=(x - y)と見ればよい。
- 和: (x + y) + (x - y) = 2x
- 差: (x + y) - (x - y) = 2y
よって、 2x × 2y = 4xy
- 所要時間: 約5〜10秒
ほぼ暗算で終わる。これだけで、約40秒の差がつく。
「たかが40秒」と思ってはならない。入試本番で「あと1分あれば…」と崩れる受験生は、毎年いる。その1分は、多くの場合、序盤で“手順の選択を誤った”結果として失われているのである。
3. 千葉県入試の一貫したメッセージ
「たまたま2025年だけ工夫が必要だったのではないか」と疑うなら、過去問の同型を見ればよい。千葉県入試は、ずっと同じメッセージを出している。
例:2023年 大問3(2) x=√3 + 2、y=√3 のとき、5x² - 5y² の値を求めよ。
ここで、いきなり代入して2乗計算を始めた時点で負けである。正攻法はこうだ。
- まず共通因数5でくくる: 5(x² - y²)
- 次に因数分解: 5(x + y)(x - y)
- ここで初めて代入する。
出題者が試しているのは「計算の根性」ではない。 “変形してから代入する”という手順(アルゴリズム)を踏めるかである。これを単なる計算力テストだと思っている限り、点数は頭打ちになる。これは判断力テストなのだ。
4. 今すぐできる「3秒の儀式」
では、どうすれば最短ルートで正解できるのか。対策はシンプルで具体的だ。
「解き始める前に、形を3秒だけ見る」
問題を見た瞬間、反射的に手を動かしてはいけない。一度手を止めて、次の3点をスキャンする。
- 共通因数はあるか
- 2乗-2乗(A² - B²)の形か
- 置き換え(t = …)で一気に整理できる形か
この3点に当てはまったら、ルールは一つである。“展開禁止”にせよ。
たった3秒の点検が、30秒以上の時短と、計算ミスの激減というリターンを生む。
結論:大問1を「軽く」扱うな
千葉県公立高校入試の数学、大問1。そこはもはや、優しい準備運動の場ではない。 そこで突きつけられているのは、次の問いである。
「君は、工夫して効率よく解決できる人間か。 それとも、言われたことを何も考えずに繰り返すだけの人間か。」
まずは大問1を“最短ルート”で駆け抜け、余った時間と脳のスタミナを、合否を分ける後半の難問に注ぎ込め。それが「勝てる受験生」の戦い方である。

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