※本記事は、客観的分析のため『だ・である調』で統一しています。
千葉大学2024年英語・大問1:単語暗記信仰を打ち砕く「構造分析」の技法
受験業界にはびこる最大のノイズの一つが、「英単語を完璧に覚えれば、長文は自然と読めるようになる」という幻想である。
誤解のないように言っておくが、英単語は長文読解における必要条件である。だが、決して十分条件ではない。「語を知っていること」と「文を処理できること」は全く別の能力だからである。この事実から目を背け、単語帳を黒くなるまで塗りつぶすだけの受験生は、模試や本番の記述問題に直面したとき、文脈から想像しただけの「創作ポエム」を書き連ねることになる。
今回は、千葉大学2024年(前期)英語の大問1を対象に、「単語を知っていること」と「英文が読めること」の決定的な断絶を証明する。この良問は、受験生が抱える読解の根本原因(ボトルネック)を特定し、構造を把握する手順を身につけるための最高の訓練素材である。
1. 徹底分析:記述問題における「雰囲気読解」の限界
千葉大学の英語は、国公立大学特有の骨太な記述問題が並ぶ。下線部和訳や内容説明において求められているのは、前後の文脈から「それっぽい日本語」をひねり出す能力ではない。出題者は、「この受験生は、英文に仕掛けられた文法的な構造やルールを正確に見抜いているか」を採点基準としている。
フィーリングで読んでいる限り、部分点は愚か、0点を連発することになる。必要なのは、英文を論理的に分解し、正確に読み解く技術である。
2. ピンポイント攻略:構造分析の実践
具体的に、合否を分けたであろう和訳問題(問1および問5)を対象に、どのような論理的アプローチが必要かを提示する。
解析対象①:問1(下線部1の和訳と指示語の特定)
… the minute I put them on and discovered that I could make out a bird on a branch and every face on the playground, I loved them.
一見するとダラダラと長く、どこが文の主役なのか見失いやすい英文である。ここで「単語を繋ぎ合わせる」読み方をすると自滅する。行うべきは、構造の処理だ。
① 有限動詞と接続詞のカウント
文の骨格を掴む近道は、有限動詞(時制を持つ動詞)を数え、節の境界を当てにいくことだ。もちろん例外はあるが、初動の目安としては十分に強い。 この文には、有限動詞が4つ(put, discovered, could make out, loved)存在する。したがって、文を成立させるための「接着剤(接続詞・関係詞)」は原則として3つ必要になる。 探してみると、接続詞の働きをする the minute、等位接続詞の and、名詞節を導く that の3つが配置されていることがわかる。
② 主節の特定
接続詞が導く従属節を ( ) で、名詞節を [ ] で括って視覚化する。 ( the minute I put them on and discovered [ that I could make out a bird… and every face… ] ), I loved them. 結果として、一切の装飾を持たない「I loved them(私はそれらが大好きになった)」こそが、この長い一文の「主節」として浮かび上がる。
③ 指示語の特定
代名詞は原則として、直前の適合する名詞(または直前の内容)を受ける。ここでは直前の文にある複数形の名詞 glasses (眼鏡)が最短距離で一致する。
【導き出される解答例】
眼鏡をかけて、枝にとまる鳥も、校庭の誰の顔も見分けられると気づいたその瞬間、私は眼鏡が好きになった。
解析対象②:問5(下線部5の和訳)
Never before had I experienced the world with such intensity — it was extraordinary.
短い一文だが、出題者の仕掛けた罠が2つ存在する。
① 否定語の強制ルール
文頭が Never という否定の副詞で始まっている。否定の副詞が先頭に出た場合、後に続く主節は強制的に「倒置(疑問文の語順)」となる。したがって、I had experienced ではなく had I experienced となっている。「疑問文の訳」にしてしまう受験生は、この構造ルールを見落としている。
② 記号の論理的機能
文中のダッシュ(—)を単なる「間(ま)」だと思ってはならない。ここではダッシュが、抽象的な感情(これほど強烈に世界を経験したことはなかった)に対する後続の補足説明(それは驚異的なことだったという評価の言い換え)として接続している。
【導き出される解答例】 これほど強烈に世界を経験したことはかつて一度もなかった。それは驚異的なことだった。
3. 結論:真の読解力は「再現可能な手順」から生まれる
問2や問3の内容説明問題に関しても同様である。特定の構文の因果関係や、情報の展開ルール(核心から説明へ)を意識することで、探すべき根拠の場所は定まる。
「なんとなく文脈から想像する」という甘えは、千葉大学レベルの入試では通用しない。重要なのは、フィーリングを捨て、英文の処理を再現可能な手順に落とし込むことだ。
だが、この手順を確立する作業は、独学だと誤学習が起きやすく、一度染み付いた癖の修正にも膨大な時間がかかる。だからこそ、第三者が提示する設計図(手順と根拠)に触れ、正しいピンポイント攻略の訓練を「型」として積むこと。それが、難関校突破のための最短ルートとなるのである。

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